
(英国のスターマー首相と中国の習近平国家主席(北京、1月29日)【1月29日 Bloomberg】)
【「力強さに欠ける」イギリス経済】
どこの国の政権にとっても国内経済状況は最大の関心事です。経済がうまくいっていないと、国民からは様々な不満が噴き出します。イギリスの労働党・スターマー政権にとっても同じ。
しかし、イギリス経済は現在好調とは言い難い状況にあります。
****最近のイギリスの経済状況****
1. 成長率が弱い/不安定
2025年の実質GDP成長率は1%台前半程度にとどまり、四半期ごとの伸びもごくわずかか減速傾向がみられました。実質GDPの伸びは限定的で、時には月次ベースでマイナス成長が観測されています。
2. インフレが収まらず生活実感が重い
公式インフレ率は目標値(2%)を上回る水準が続き、2026年1月には小売価格のインフレが2年ぶりの高水準となりました。食品価格の上昇などが家計に負担をかけています。
3. 労働市場の冷え込み
求人件数は低迷し、求人倍率が低下、雇用市場の冷え込みが継続しています。また賃金上昇率はあるものの、求職や採用状況には弱さが見られます。
4. 企業・消費者の信頼感が弱い
企業の景況感や経済全般への楽観度が低下しているという調査結果が出ています。世界的な不確実性や政策面の懸念が影響しています。
5. 生産性の長期的な課題
生産性の伸びについては一部で改善の兆しがあるものの、労働市場の構造変化などから根本的な回復には慎重な見方もあります。
全体としての評価(経済指標の現状)
GDP成長は低調、インフレは高止まり気味、労働市場の硬直、消費と企業投資の弱さなど多くの指標が「力強さに欠ける」と評価されています。これはブレグジット後の調整、世界経済の減速、政策の不確実性など複数の要因が重なっていると分析されています。
このため、「イギリス経済は好調とは言い難い」という見方が一般的です。 2026年に向けて成長率の上方修正予想などもありますが、現段階では依然として構造的な下押し圧力が残る状況です。【ChatGPT】
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【国民不満と受け皿になる右派ポピュリスト政党「リフォームUK」】
日本も似たり寄ったりにも思えますが、それは今はさておき、経済状況が良くない国民の不満の矛先は“移民・外国人”、そして“エリート・既得権益層”に向けられます。
そうした国民の不満の受け皿になっているのが右派ポピュリスト政党「リフォームUK」で、その支持率は保守・労働の二大政党を上回っています。ということは、もし今選挙があれば、政権下獲得も・・・という状況。
****右派ポピュリスト政党に勢い 支持率トップ、「リフォーム政権」も?―英****
英国の新興右派ポピュリスト政党「リフォームUK」の勢いが止まらない。トランプ米大統領に倣って「英国を再び偉大に」と叫んで支持を広げ、支持率は労働・保守の二大政党を押しのけトップ。4年以内に行われる次期総選挙での大衆迎合政権誕生も絵空事ではない。
リフォームUKは2021年、英国の欧州連合(EU)離脱運動を率いたナイジェル・ファラージ氏を党首に発足した。反エリート主義などを前面に出し、24年7月の総選挙で同氏を含む5人が当選。25年5月の地方選で大躍進し、以来、各種支持率調査で半年以上にわたり連続トップを維持してきた。
党員数では今や与党・労働党を超えたとされており、調査会社の議席獲得予想では、下院の半数近くを得て第一党に躍り出るとの結果も出ている。
破竹の勢いの背景には、移民流入や難民への強い反感がある。昨秋の世論調査では移民問題が経済を抜き国民の最大の懸念に浮上。物価高で暮らしが苦しい中、国民は不法移民に多額の公費が使われることに不満を募らせている。「移民を止めろ」のスローガンは多くの人の共感を呼ぶ。
また、既成政党やエリート層への不信感が、民衆の理性よりも感情をよりどころとするポピュリズムへの共鳴につながっている。不祥事続きの保守党は24年総選挙で下野して以降、存在感が急低下し、所属議員のリフォームへのくら替えが続出。労働党もリフォームに押され、移民政策などで右派的な方針転換を余儀なくされている。
マンチェスター大のロバート・フォード教授(政治学)は時事通信の取材に「保守党の脆弱(ぜいじゃく)性と有害性、(改革をもたらせない)労働党政権への不満」がリフォームの台頭を生んだと分析した。
ただ、英国は小選挙区制で、主要政党以外は議席を得にくい傾向がある。現在、コア支持層以外も取り込んで「バブル状態」のリフォームが、支持を保ち続けるのは至難の業だ。フォード教授は「リフォームは英政界を形作る永続的な存在となり得る」ものの、将来的に支持離れが起きて「幸運が逆転する」可能性も指摘した。【1月4日 時事】
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右派ということでは、保守党内部にもリフォームUKの主張に共感しやすいものがありますので、勢いのあるリフォームUKに鞍替えする議員も。
****元内相、右派政党に合流 保守党離脱、今月3人目―英****
英野党保守党の重鎮、ブレーバーマン下院議員が26日、右派ポピュリスト政党「リフォームUK」に合流すると表明した。英メディアによると、保守党下院議員がリフォームUKに移るのは今月だけで3人目。内相などの要職を歴任したブレーバーマン氏の寝返りは政界に衝撃を与えており、保守党を離脱する動きが続くとみられている。
ブレーバーマン氏は26日、リフォームUKのファラージ党首と共に同党集会に参加し、「移民流入が制御不能となり、英国は壊れてしまった」と演説した。今月半ばに保守党の有力者だったジェンリック議員ら2人がくら替えしており、リフォームUKに所属する下院議員は計8人になった。過去1年半で同党に寝返った保守党元議員も約20人に上り、BBC放送は「新たな大物の移籍でリフォームUKの勢いが示された」と伝えた。【1月27日 時事】
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【スターマー首相 中国との経済関係強化で事態の打開を図る 8年ぶりの訪中】
こうした政治情勢を受けて、労働党・スターマー首相としては何としても経済状況を改善したいところ・・・その方策が中国との関係改善です。スターマー首相は8年ぶりの訪中へ。
****英首相が中国主席と会談、関係改善に意欲 8年ぶり訪問****
スターマー英首相は29日、中国の習近平・国家主席と北京の人民大会堂で会談した。成長や安全保障の強化を目指して「より洗練された」関係を築きたいと述べ、冷え込んでいた関係の改善に意欲を示した。
スターマー氏は会談の冒頭で「中国は世界の舞台で重要な役割を担っており、われわれが協力の機会を見いだすと同時に、意見が異なる分野でも有意義な対話ができるような、より洗練された関係を構築することが不可欠だ」と述べた。
習氏は中英関係がどちらの国にも利益にならない「紆余曲折」を経てきたとした上で、中国は長期的な戦略的パートナーシップを築く用意があると述べた。
英首相の訪中は2018年以来。英国はデンマーク自治領グリーンランド領有に意欲を示すトランプ米大統領の最近の発言などを巡り、長年の同盟国である米国との間で緊張が高まっている。
また、労働党政権が公約した経済成長の実現に苦戦するスターマー氏は、スパイ活動や人権問題への懸念が残る中でも、ビジネス機会の創出を期待して中国との関係改善を優先事項の一つに据えている。【1月29日 ロイター】
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“スパイ活動や人権問題への懸念が残る”・・・その象徴がロンドン中心部に建設予定の巨大な中国大使館への批判であり、長年建設計画がストップしていましたが、スターマー首相は批判がある中、建設を承認するという“手土産”を持って中国に向かいました。
****英政府「巨大」中国大使館を承認 安全保障リスクへの批判のなか*****
英国議会の与野党を問わず「スパイ活動の拠点となり、反対派への威圧手段となる恐れがある」との強い批判があったにもかかわらず、英国政府は20日、ロンドン中心部に建設予定の巨大な中国大使館の建設を承認した。
数年にわたる遅延と法的争議を経て、ロンドン塔近くの建設計画は正式に承認された。
批判派はかねてより、欧州最大となるこの超大型大使館が、中国の情報収集活動のリスクを高めるとともに、亡命中の中国反体制派に対する監視・威嚇の脅威を増幅させる恐れがあるとの懸念を表明してきた。
英国の2つの諜報機関の長は、すべてのリスクを排除することは現実的ではないとし、適切な「安全対策」が講じられていると述べた。
大使館建設計画は2018年、中国政府がかつて英国通貨が製造されていたロイヤルミントコートの敷地を2億2500万ポンド(約約478億円)で購入して以来、反対運動と抗議に悩まされてきた。
反対派は、この巨大施設がロンドンの二大金融地区間で機密金融情報を伝送する地下光ファイバーケーブルに近接しすぎていると指摘。英国のメディアは、2万平方メートルの複合施設には、データケーブルに近い208の秘密の地下室が含まれると報じている。 【1月21日 AP】
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【スターマー首相訪中は“米国のトランプ政権が国際秩序を軽視する姿勢を強める中、対中関係改善に動く欧州各国の流れを象徴するもの”】
スターマー首相の狙いは経済関係強化ですが、昨今のアメリカ・トランプ政権の言動を見れば、アメリカに頼るだけではやっていけないという思いが中国接近の根底にあるように見えます。
****中英首脳、関係強化で一致 米にらみ接近、経済協力も拡大****
(中略)トランプ米政権が貿易や安全保障面で欧州への圧力を強める中、英中関係の安定化を図った。英政府などによれば、中国による英国産ウイスキーへの関税引き下げについて協議したほか、中国側が英国人の短期滞在時のビザを免除することで合意した。
中国外務省によると、習氏は「国際情勢が混沌(こんとん)とする中、世界の安定や両国経済の促進のために対話と協力を強化すべきだ」と述べた。「中国は自ら戦争を起こそうとしたことはなく、どれだけ発展しても他国の脅威にならない」とも主張。ベネズエラを攻撃し、デンマーク自治領グリーンランドの領有を目指すトランプ政権の動きが念頭にあるもようだ。習氏は金融や人工知能(AI)、新エネルギー分野での連携と交流拡大に意欲を示した。
スターマー氏は、今回の訪問に60人以上の経済界代表らが同行していると説明した上で「対中協力拡大に向けた英国の決心を示している」と語った。「脆弱(ぜいじゃく)な国際情勢において、英中の長期的、安定的な戦略的パートナーシップが重要だ」として、中国側との意思疎通と貿易・投資面での連携を深めていくと語った。【1月29日 時事】
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イギリス・スターマー政権の中国接近は単にイギリスだけの動きではなく、“米国のトランプ政権が国際秩序を軽視する姿勢を強める中、対中関係改善に動く欧州各国の流れを象徴するもの”でもあります。
****スターマー英首相が訪中、習近平主席と経済協力の拡大で一致…対中関係改善に動く欧州各国の流れを象徴****
英国のスターマー首相は29日、北京で中国の 習近平シージンピン 国家主席と会談し、経済協力の拡大で一致した。英首相の訪中は8年ぶり。米国のトランプ政権が国際秩序を軽視する姿勢を強める中、対中関係改善に動く欧州各国の流れを象徴するものとなった。(中略)
今回の訪中は、英首相としては2018年のメイ氏以来で、英中関係の改善を志向するスターマー氏の意欲が強く表れた。中国との経済・貿易関係の強化を最大の目標とし、製薬大手アストラゼネカや鉱物資源の世界大手アングロ・アメリカンなど、50以上の英企業・団体などが同行した。(中略)
一方、中国に向かう機内では、記者団に「経済的な恩恵を得るために国家の安全保障で妥協するようなことはしない」と強調していた。会談後も「中国と向き合う理由の一つは、互いに異論がある案件でも成熟した議論を可能とするためだ」と説明した。
最大野党・保守党などから「中国に融和的だ」と批判されているスターマー政権は、中国に接近しすぎたと見なされれば、トランプ米大統領の不興を買う恐れもあることを強く意識しているとみられる。
デンマーク自治領グリーンランドの領有問題などで、トランプ政権に対する不信感を募らせている欧州などの国々は、中国に再接近している。フランスのマクロン大統領が昨年12月に訪中して以降、1月にはアイルランド、カナダ、フィンランドの各首相が相次いで中国を訪問し、ドイツのメルツ首相も訪中日程を調整中とされる。
こうした状況を習氏は好機と捉え、米欧間に生じた不協和音を利用するかのように欧州各国に関係改善に向けた秋波を送っている。
今回の会談でも「国際法は各国が順守して初めて効力を持つ」と語るなど、国際法をないがしろにする言動を繰り返すトランプ氏を暗に批判した。今年4月に予定されるトランプ氏との会談を前に欧州と良好な関係を築き、自らの立場を強める思惑もありそうだ。
ロンドン大学東洋アフリカ学院のスティーブ・ツァン教授は、欧州各国の動きについて「欧州側としても選択肢があることをトランプ政権に示す意味合いもある」と分析。その上で、「中国はトランプ政権よりも予見可能性はあるかもしれないが、より信頼できる相手というわけではない」とも指摘している。【1月29日 読売】
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【トランプ大統領 「英国にとって非常に危険な行為」と警告】
中国に接近しすぎると“トランプ米大統領の不興を買う恐れもある”・・・実際、トランプ大統領は「英国にとって非常に危険な行為」と警告しています。
****トランプ氏、英国の中国接近をけん制 「非常に危険」****
トランプ米大統領は29日、英国が中国とビジネス協力を拡大するのは「非常に危険だ」と警告した。
トランプ氏は、英国が中国とのビジネス機会における協力強化を表明したことに関する記者からの質問に対し、「英国にとって非常に危険な行為だ。カナダが中国とビジネスを行うことはさらに危険だと思う」と述べた。
スターマー英首相は29日、中国の習近平・国家主席と北京の人民大会堂で会談し、両国の相互利益のために貿易、投資、技術面での協力拡大で一致した。 英首相官邸の報道官からコメントは得られていない。
トランプ大統領の発言とほぼ同じ時間に、スターマー氏は中国・北京で開かれた英中ビジネスフォーラムの会合で、習主席との会談は「非常に温かい」ものだったとし、「まさにわれわれが期待していたレベルの関与」が得られたと言及。「われわれは温かく関与し、実質的な進展を遂げた。英国には提供できるものが多くある」と語った。
また、ビザなし渡航やウイスキー関税引き下げに関する合意について「両国関係の取り組みを象徴する非常に重要な合意」と称賛し、「相互の信頼と尊重を築く方法だ」と述べた。
スターマー氏は中国へ向かう機内で記者団に対し、英国は米国と緊密に協力してきた長い歴史があるため、トランプ大統領の反発を買うことなく中国との経済関係を強化することができると述べ、米中のどちらとより緊密な関係を築くかを選ぶ必要はないとの見方を示していた。【1月30日 ロイター】
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スターマー首相同様に、カーニー首相が8年ぶりに中国を訪問し、中国と新時代の戦略的パートナーシップの構築に合意したカナダは中国との貿易協定を実行に移した場合、100%の関税を課すとトランプ大統領から警告されています。