lonelylika’s diary

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ

イギリス  「脅威に近いが、経済・外交的に切れない相手」中国 「スパイ事件起訴取下」で弱腰批判

(ロンドン中心部に建設が計画されている巨大中国大使館に抗議するデモ【929日 FNNプライムオンライン】)

 

【英中関係の変遷 「敵」ではなく「競争相手・挑戦」(脅威に近いが、経済・外交的に切れない相手)】

イギリスと中国の関係は、「経済的な利益関係を切りたくない一方で、安全保障上は強い警戒感を抱く」――いわば“協力と警戒の二重構造”にあります。


とくに2010年代半ばの「黄金時代」と呼ばれた時期から、近年の「戦略的警戒」路線への急転換まで、はっきりとした変遷が見られます。

 

****英中関係の変遷*****

1. 「黄金時代」経済重視の時期(キャメロン〜メイ政権期:2010年代前半〜中盤)

キャメロン首相(保守党、2010–2016)時代、英中関係は「黄金時代 (Golden Era)」と呼ばれました。 背景には、中国からの巨額投資と英国のポスト金融危機の成長戦略がありました。

事例)ロンドンを人民元の国際取引ハブにしようとした。

   原子力発電所(ヒンクリーポイントC)への中国資本参加を容認。

   中国国家主席習近平国賓訪英(2015年)は「両国の蜜月」の象徴。

当時、英国は他の欧州諸国に比べても、中国に最も開放的な姿勢をとっていた西側主要国の一つでした。

 

2. 「懸念と警戒」へ急転換(メイ後期〜ジョンソン政権期)

2019年以降、香港での民主化運動弾圧(国家安全維持法の制定など)、新疆ウイグル人権問題、英国内での中国資本によるインフラ・通信分野への進出(特にファーウェイ問題)が次第に問題視され、英国の世論と政界の対中観が急速に冷え込みました。

 

ファーウェイ排除(2020年):
英政府は当初、5Gネットワークの構築にファーウェイの参加を一部認めていましたが、米国からの強い圧力と安全保障機関(MI5GCHQ)の警告を受け、2020年に完全排除を決定。

 

香港BNOビザ制度導入(2021年):
香港国家安全法に抗議する形で、香港市民に英国への移住ビザを拡大。→ 中国政府はこれを「英の主権侵害」として非難。

 

孔子学院・大学連携の見直し、地方自治体レベルの中国依存抑制なども進む。

この時期以降、英中関係は「警戒・対立フェーズ」に入りました。

 

3. 「戦略的警戒」から「限定的関与」へ(スナク政権:2022〜現在)

スナク首相は、ジョンソン時代ほど露骨な「対中強硬路線」ではないものの、「経済は現実的に維持、安全保障は徹底的に警戒」というバランスを取る戦略に移っています。

 

2023年の外交防衛戦略レビューで、中国を「時代を定義する挑戦(epoch-defining challenge)」と位置づけました(敵国ではなく挑戦と定義)。

中国を「直接的な脅威」とは呼ばず、あくまで「体系的競争相手」として分類。→ 米国やオーストラリア(AUKUS)と協調しつつ、完全な対立構図は避けています。

 

経済面では、中国依存の分散を目指しつつ、輸出市場としての関係を継続。
特に英国の大学や教育セクターでは依然として中国人留学生が最大層を占め、経済的にも切り離せない関係が残っています。

 

4. 安全保障・スパイ・議会対策面での対立激化

近年のスパイ事件・サイバー攻撃疑惑は、英中関係の最大の摩擦要因になっています。

 

中国スパイ疑惑20232025):英議会関係者が中国のために情報を収集していたとして逮捕された事件。

MI5(保安局)による警告:「中国は英国の政治制度に影響を及ぼそうとしている」との警告を公表。英国の政治家・議員宛に「中国政府関係者が議会ロビー活動を行っていた」と通告した例もあります。

 

サイバー攻撃・知的財産窃取:英政府は中国国家安全省(MSS)系のハッカー集団による侵入を複数公表。外務省や地方自治体レベルでも対策強化。

 

このため、政治・安全保障分野では「ロシア並みに警戒対象」、しかし「経済的には切れない」というねじれた構図になっています。

 

総括

ロシア=「敵」(安全保障上の明確な脅威)

中国=「競争相手・挑戦」(脅威に近いが、経済・外交的に切れない相手)
というのが現在の英国政府の公式スタンスです。

 

ただし、議会・世論・MI5などの実務部門は、実際には「中国もロシアと同等レベルの脅威」と見ており、政府の“慎重な表現”とのギャップがしばしば問題化します。【ChatGPT】

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【政府認識と議会・世論・MI5などとの間のギャップ 「スパイ事件起訴取り下げ」】

現在、イギリスで約2週間も新聞の1面を飾るほど大きな政治問題となっている「スパイ事件起訴取り下げ」も、中国を「敵」ではなく「競争相手・挑戦」と位置づけ、経済関係を維持しようとする慎重な政府と、「中国もロシアと同等レベルの脅威」と見なす議会・世論・MI5などの実務部門の間のギャップを示す象徴的な事例と言えます。

 

中国によるスパイ行為と認定するためには、中国がその時点で「国家安全保障上の脅威 (threat/enemy)「敵」と認められていたことが必要になるが、政府には当時そういう認識はなかった・・・・というのが起訴を取り下げた政府側の主張です。

 

****「中国のスパイ」の起訴取り下げ(=起訴を取り下げたスパイ疑惑事件)****

英国内で、クリストファー・キャッシュ(元議会調査員)およびクリストファー・ベリー(教師)の2名が、中国のためのスパイ行為、あるいは英国の国家安全保障上不利益となる情報を中国に提供した疑いで起訴されていました。

 

しかし最近、検察(CPS)はこの起訴を取り下げました。理由として、起訴基準を満たす十分な証拠を政府(あるいは関係機関)から得られなかったためと説明されています。

 

起訴にあたって必要とされた論点の一つが、被告らの行為が「敵国 (enemy)」の利益になるようなものであったという立証、すなわち被告行為が「敵に有用となるようなもの」であったということを示す証拠を提示しなければならないという点でした。

 

特に、中国をその時点で「国家安全保障上の脅威 (threat/enemy)」と認定できるか、検察側が明確に主張できるか、という点が争点となっていました。

 

起訴取り下げを受けて、公訴局長官(検察トップ)が、検察としては政府から証拠提供を得ようと何か月も努力したが十分なものが得られなかったと議会に書簡提出しています。

 

この決定を巡って「検察の独立性」「政府の関与・圧力の可能性」「証拠の提供を政府が渋ったのではないか」という疑念が野党やメディアから投げかけられています。

 

与党側や政府側は、起訴判断はCPSの独立的判断であり、政治介入はなかったとの立場をとっています。

 

この事件は、英国における情報機関・国家安全保障法制度・起訴制度・外交政策との関係性をめぐる大きな政治的圧力点となっています。【ChatGPT】

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こうした政府の対応は国家安全保障に関して弱腰との批判を浴びています。しかも、それだけ中国に配慮しながら経済的成果を実現できていないとも。

 

****英首相、対中関係改善に弱腰批判 スパイ起訴断念が波紋****

スターマー英首相は中国との関係改善を試みているが、国内では国家安全保障上の脅威を見過ごしているとの批判を受ける一方、切望する経済的利益もほとんど確保できていない。 

 

検察は先週、中国のために議会でスパイ活動を行ったとして起訴された英国人男性2人の起訴を断念せざるを得なかったと発表した。中国が国家安全保障上の脅威であるとの見解を示すことを、英政府が拒否したためだ。 

 

政権は、中国をなだめるために閣僚らが事件に干渉したことを否定。しかし政敵からは、安全保障や人権問題よりも中国との関係改善を優先したのは今回で6回目だとの声が上がる。 

 

政敵はまた、(1)政府が対中関係について待望の監査結果の公表を拒否した、(2)「外国影響力登録制度」に基づき、より厳しい規制の対象となる国のリストから中国が除外された――点を指摘している。 

 

<対中関係改善を最優先> 

スターマー氏率いる労働党政権は、インフラ更新と経済成長という選挙公約を実現するため外国投資を追求しており、そうした中で対中関係改善を最優先課題に据えてきた。 

 

しかし安全保障や貿易の専門家らは、世界的な関税戦争が繰り広げられている中、また中国が脅威に直面する局面で経済的強制力を行使してきた過去の経緯を踏まえると、対中融和優先は危険な道だと警告している。 

 

これに対してジャービス安全保障担当閣外相は今週、議会で「中国が英国の国家安全保障に一連の脅威をもたらしていることは十分に認識しているが、中国が英国にチャンスをもたらしているという事実も直視しなければならない」と述べた。 

 

ただ、これまでのところ、経済的利益は限られている。中国は英国にとって第5位の貿易相手国で、貿易総額の5.5%を占める。しかし英国からの対中輸出は今年3月までの1年間に12%減少し、昨年7月の労働党政権発足以来、主要貿易相手国20カ国の中で2番目に急激な落ち込みを示した。対英直接投資総額に占める中国の割合はわずか0.2%だ。 

 

<対中関係は慎重に> 

英国家安全保障担当の元高官はロイターに対し、英政府が国家安全保障上の利益を守るため中国への強硬姿勢を採りつつ、貿易・投資関係を維持することは可能だと述べた。 しかし元高官は、中国が核心的問題とみなす台湾、香港、南シナ海などに英国が干渉していると感じた場合には、問題が生じると語った。 

 

元政府貿易顧問で現在はコンサルティング会社SECニューゲートに所属するアリー・レニソン氏は、中国がメッセージを送りたい場合には英国の再生可能エネルギーインフラへの投資を縮小する可能性があると指摘。「中国は英国が望むような縦割りの対応はしない」と語った。 

 

<政治的リスク> 

スパイの起訴を断念したニュースは英国で約2週間も新聞の1面を飾った。 スターマー氏は現在、国家安全保障に関して弱腰だと見なされるリスクに直面している。ある労働党議員はロイターに対し、今回の失態が政府に「不誠実」という印象をもたらしかねないとこぼした。 

 

中国はロンドンに欧州最大の大使館を建設する計画を立てており、これを承認するかどうかという政治的に敏感な決定にも、スパイ起訴断念の一件は影を落とすだろう。 前出の英国家安全保障担当の元高官は、大使館建設の申請を拒否するのは手遅れだと考えている。 

 

<関係を改善しない余裕はない> 

対中関係を巡るこうした緊張にもかわらず、多くの貿易専門家、さらには元安全保障当局者でさえ、経済が停滞する英国は中国と協力する道を探る必要があると言う。 労働党政権発足以降、少なくとも4人の閣僚が中国を訪問しており、スターマー氏も来年訪中を予定している。 

 

別の安全保障当局者は「ブレグジット(英国の欧州連合=EU離脱)後の英国にとって、世界第2位の経済大国と経済関係を持たない余裕はあるのか。答えはノーだ」と言い切った。 

 

英財界と密接な関係を持つ元英外交官も同意見で、中国はすでに多くの将来技術において欧米を追い抜いていると指摘。「我々が追い付きたいなら、中国に投資と技術共有をしてもらう必要がある」と語った。【1017日 ロイター

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【ジョンソン政権時代の機密情報流出隠蔽も】

中国をめぐる問題として、ジョンソン政権時代の機密情報流出隠蔽も表面化しています。

 

ジョンソン元英首相の首席顧問を務めたカミングス氏は、中国が英政府機関のネットワークシステムに侵入し、長年にわたり機密情報を入手していたと証言。ジョンソン氏ら政府高官は報告を受けたが公表せず「隠蔽した」と主張しています。

 

****中国に英機密情報流出か ジョンソン政権、隠蔽疑惑も英紙****

中国が英政府機関のデータ転送システムに侵入し、長年にわたり「膨大な量」の機密情報を得ていた可能性が浮上している。当時のジョンソン政権は問題を認識していたが、対中関係を考慮して公表しなかったという。英紙タイムズが16日、ジョンソン元首相の最側近だったカミングス元官邸上級顧問の証言を基に報じた。

 

カミングス氏によると、侵入には「英国の重要な国家インフラに関与する中国系企業」が関わっていた。安全保障に関連したデータのほか、政府の「最高機密情報」が流出した可能性がある。元首相やカミングス氏は2020年に報告を受けたが、内閣府高官から「メディアとこの件を議論するのは違法」と警告を受け、隠蔽(いんぺい)が行われた。

 

カミングス氏のほか当時の政権幹部も中国に機密情報が転送された事実を確認した。情報は暗号化されているが、現在も中国当局がアクセスできる可能性があるという。カミングス氏は「国の安全より中国マネーを優先する政治的選択がなされた」と指摘した。

 

BBC放送によると、現在の内閣府報道官は「政府のデータ転送システムが侵入されたという主張は虚偽だ」と否定している。【1016日 時事

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カミングス氏の発言や主張に対して、イギリス政府側は「最も機密扱いされる情報系統 (Strap などが中国に侵入されたという主張は “categorically untrue” (断固として虚偽)である」と反論しています。情報セキュリティ分野の専門家も、カミングスの主張を裏付ける公的証拠が示されていないことを指摘しており、非常に疑義のある主張とみなす向きもあります。

 

もし、カミングス氏の発言が事実に近いとすれば、「スパイ事件起訴取り下げ」は現労働党政権の、機密情報流出隠蔽はジョンソン保守党政権時代のものということで政権は異なりますが、「国の安全より中国マネーを優先する政治的選択がなされた」との批判を浴びることになります。

 

もっとも、中国やアメリカといった大国との関係で、筋をとおす“あるべき論”と、現実的利害を重視する立場の間での葛藤は日本でも多々あることころで、イギリスだけのものでもありません。