
(【2025年12月2日 日経】 先ず、場所を確認する必要がある、馴染みが薄い国ですが・・・)
【東ティモール:石油収入に頼る経済構造 頼みの石油が枯渇 30年代には財政危機に陥る恐れ】
2002年にインドネシアからの独立を果たした東ティモールは、昨年10月、悲願だったASEANへの加盟が正式承認されました。
****【ASEAN加盟】東ティモール、「参画優先」で11番目の席へ...ミャンマー問題と引き換えに得る「膨大な機会」とは?****
<GDP約20億ドルの若い国は「批判より参画」。ASEAN市場へ参入し、内政不干渉の原則とミャンマー問題の狭間で現実路線を選ぶ>
マレーシアで開催されたASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議で10月26日、全会一致で加盟が承認され、東ティモールはASEANの11番目のメンバーとなった。
急成長を遂げるASEAN(域内人口6億8000万人)への加盟は自国に「膨大な機会」をもたらすと、東ティモールのグスマン首相は述べた。
東ティモールは24年間インドネシアの占領下に置かれ、2002年に独立を果たした若い国だ。この国が貧困と闘い、産出量が減りつつある石油頼みの経済を転換するには、加盟国の協力が役立つだろう。
ただ加盟に当たっては政治的な妥協も強いられた。ASEANの「内政不干渉」の原則を守るとの名目でミャンマー軍政への批判を控える方針を取らざるを得なかったのだ。
東ティモールはGDP(約20億ドル)でASEAN加盟国中最下位、人口(約140万人)もブルネイに次いで下から2番目。 貧しい小国が加わることで、加盟国の経済格差がさらに広がる懸念もある。【2025年11月10日 Newsweek】
**************************
東ティモールの経済状況は厳しく、“東ティモールは02年の独立以来、石油収入に頼る経済構造から脱却できずにいる。人口約140万人の4割が貧困状態にあり、若年層の失業率も高い。資源が枯渇すれば、30年代には財政危機に陥る恐れがある。”【2025年11月13日 毎日】とも。
石油・ガスがGDPの約80%、歳入の90%を占める“石油依存経済”にあって頼みの石油は、主たる油田ですでに枯渇しており、別の油田の開発は目途が立っていません。そうした状況で、石油収入を積立てきた基金は2035〜2040年頃に枯渇すると見込まれています。
****経済基盤の弱い東ティモールを支える石油資源の状況****
東ティモールの主な石油資源
バユ・ウンダン油田(Bayu-Undan)
開発:2004年操業開始(ティモール海・オーストラリアとの中間水域) 主に液化天然ガス(LNG)とコンデンセートを生産 2023年末に商業生産終了(枯渇)
グレーター・サンライズ油田(Greater Sunrise)
推定埋蔵量:約50億バレル相当(ガス換算) 埋蔵規模は大きいが、開発は政治的・技術的理由で停滞中
オーストラリアとの海上境界問題(2018年に一応合意)
LNGの液化・輸出拠点をどこに置くか(東ティモール側か豪ダーウィンか)で対立
開発開始の目途はいまだ立たず
国家財政と「石油基金」
東ティモールは2005年に「石油基金(Petroleum Fund)」を創設。 これは産油収入を貯蓄し、将来の財政を支える目的で運用されている。 2024年時点の残高は約 170億ドル(約2.5兆円)。
しかし政府支出が膨張しており、年間引き出しが投資収益を上回る状態が続く。
枯渇時期の見通し
バユ・ウンダン終了により、現在ほぼ新たな石油収入はない。
グレーター・サンライズが開発されなければ、石油基金は2035〜2040年頃に枯渇するとの見積もりが複数の国際機関(世界銀行・IMFなど)から出ています。【ChatGPT】
*********************
個人で言えば、失業して新たな仕事も決まらず、貯金も減っているというシビアな状況。
そうした経済的苦境のため、特殊詐欺組織が詐欺広告で「高収入アルバイト募集」を行うといった問題も起きているようです。
“東ティモール「独立以来の危機」 祝賀ムードの裏で特殊詐欺拠点に?”【2025年11月13日 毎日】
【インドネシアの厳しい弾圧に苦しんだ東ティモール インドネシアとの関係清算は未だ】
インドネシアの厳しい弾圧に苦しんだ東ティモールとインドネシアとの関係は未だに整理しきれないものが残っています。
インドネシアのプラボウォ大統領は軍人時代に東ティモール独立運動への弾圧・人権侵害に関与していたとされる人物で、そうした疑惑を否定していますので、両国関係が大きく改善するのは当分難しいかも。
****「盗まれた子供」進まぬ救済=東ティモール侵攻から半世紀―インドネシア****
1975年にインドネシアが東ティモールに侵攻してから12月で半世紀。占領下の東ティモールから兵士らに連れ去られた「盗まれた子供たち」が、今もインドネシアで暮らしている。インドネシア政府は被害者への賠償を行っておらず、救済は進んでいない。
◇部隊参加後に連れ去り
「初めは兵士たちと遊んでいるつもりだった」。東ティモール東部の村で生まれ、おじや兄と暮らしていたロベルト・ダ・シルバさん(52)=ジャカルタ在住。80年ごろにインドネシア兵から部隊への参加を促され、少年兵として荷物持ちや調理を担うようになった。
85年初め、家族も知らないうちにバリ島に連れて行かれた。当初は優しかった兵士は豹変(ひょうへん)し、銃を手に「言うことを聞かなければ撃つ。助けてくれる人はいないぞ」と脅してきた。身の危険を感じて逃げ、孤児院に受け入れてもらい高校まで進学した。
ジャカルタで働き始めた後、2010年ごろに家族との再会を支援する団体を知り、連絡が取れなくなっていた家族を捜し始めた。1年ほどかけて家族を見つけ、既に独立を果たしていた東ティモールで15年に対面。「うれしくて言葉にならなかった」。30年ぶりの再会をこう振り返る。
これまでインドネシア政府による救済策はほとんどなく、ジャカルタで麺料理の屋台を営み生計を立てている。インドネシア人の妻を連れて故郷を再訪したいが、経済的な余裕はない。
◇被害者4000人
連れ去りに遭った人々を支援するNGO「AJAR」によると、75年から東ティモール独立の是非を問う国民投票が行われた99年までの間の被害者数は少なくとも4000人に上るとみられる。ただ、これまでAJARが確認できたのは200人余りで、家族と会えたのは106人にとどまる。
再会が難航する背景には、軍の力が強いインドネシアで問題が表面化しづらかったことや、占領下の混乱の中で住民登録書類が消失したことがある。名前や宗教も変えられるケースも多く、AJARの担当者は、「被害者の多くは自身が東ティモール出身だと知らない」と話している。
インドネシア政府は、子供の連れ去りが組織的に行われたとは認めておらず、正式な謝罪はないまま。家族に会うための帰国に必要なパスポート取得や航空券の手配などでは便宜を図ったことがあるが、賠償はない。
プラボウォ大統領は東ティモールを占領したスハルト政権の軍幹部だった。11月には、故スハルト元大統領に「国家英雄」の称号を与えるなど、当時を再評価するような動きも出ている。匿名を条件に取材に応じた被害者の一人は「今の政権では救済は望めない」とこぼした。【2025年12月28日 時事】
***********************
【人権侵害に敏感な東ティモール、ミャンマー軍事政権の戦争犯罪に関する告訴状を受理】
冒頭記事で“ASEANの「内政不干渉」の原則を守るとの名目でミャンマー軍政への批判を控える方針を取らざるを得なかった”とあるように、民主派支援・人権問題言及・国際法重視と、外交的にはこれまでミャンマー軍政には批判的な姿勢をとってきました。
おそらくこれは、東ティモール自身がインドネシアの厳しい弾圧に苦しんだという経験から、人権弾圧に対する厳しい対応になっているものと推測しています。
ミャンマー軍政は東ティモール加盟に「内政不干渉原則を守っていない」と主張して異議を唱えていました。
そのミャンマーの人権団体がミャンマー軍政を告発する告訴状を東ティモール司法当局に出し、東ティモールはこれを受理しました。
反発するミャンマー軍事政権は、ミャンマーに駐在する東ティモールの臨時代理大使に対し、7日以内の国外退去を命じています。
****ミャンマー軍政、東ティモール代理大使追放 戦争犯罪調査受け****
ミャンマー軍事政権は同国に駐在する東ティモールの臨時代理大使に対し、7日以内の国外退去を命じた。国営メディアが16日報じた。ミャンマーの人権団体が軍政の戦争犯罪を巡り法的手続きに踏み切ったことで対立が激化している。
ミャンマー北西部チン州の人権団体「チン州人権機関(CHRO)」は1月、東ティモール司法省に告訴状を提出し、ミャンマー軍政が2021年のクーデター以降、戦争犯罪と人道に対する罪を犯したと主張した。
CHROは2月上旬、告発を受けて東ティモールの司法当局がミャンマー軍政に対する法的手続きを開始し、ミンアウンフライン国軍最高司令官も対象に含まれると明らかにした。
国営紙グローバル・ニュー・ライト・オブ・ミャンマーは、外務省の話として「東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の国家元首が、別の加盟国に敵対する違法組織と、このような非建設的な関与を行うことは、到底容認できない」と伝えた。
外務省は東ティモール側が訴えを受理し、検察官を任命して調査に乗り出すことは、「前例のない慣行であり、否定的な解釈を招き、(国民の)憤りを激化させた」と主張した。
CHROの幹部サライ・ザ・ウク氏は、告発先を東ティモールとした理由について、ASEAN加盟国で独立した司法を持つことに加え、チン州の多数派であるキリスト教徒の苦しみに理解を示すと見込んだと説明した。東ティモールは国民の多くがカトリック教徒だ。【2月16日ロイター】
********************
ASEAN加盟時に“ASEANの「内政不干渉」の原則を守るとの名目でミャンマー軍政への批判を控える方針を取らざるを得なかった”東ティモールがミャンマー軍政告訴状を受理したのは、基本的には再三触れているように、東ティモール自身がインドネシアの弾圧に苦しんだ経験がベースにあるものと推測します。
なお、ミャンマー軍政の犯罪への告訴を東ティモールが受理できる法的根拠は「普遍的管轄権(Universal Jurisdiction)」です。
「普遍的管轄権(Universal Jurisdiction)」:戦争犯罪・人道に対する罪・ジェノサイドなどは「国際社会全体に対する犯罪」とされ、犯罪地・加害者国籍・被害者国籍に関係なく他国の裁判所でも訴追可能とする原則。
また、東ティモールの憲法・国内法は、国外で行われた重大国際犯罪の訴追を認めています。
そのため、ミャンマー国内で起きた残虐行為でも東ティモール検察が刑事ファイルを受理し、検討・捜査を開始することが可能とされています。
【ミャンマー軍政告発をめぐる各国の状況】
ミャンマー軍政をめぐっては、アルゼンチン、ドイツ、トルコ、インドネシア、フィリピンなど、東ティモール以外でも告訴状提出の動きがあります。
****ミャンマー軍政告発に関する各国の状況****
一番進んでいるのがアルゼンチン。
ロヒンギャ迫害などをめぐり、被害者団体が提訴。連邦刑事裁判所の判事が2021年に正式捜査を開始。2022年には検察に捜査権限を委任。 国連の独立調査機構も証拠提供で協力。
→ 現時点で、国内裁判所が本格的に事件として扱っている代表例です。
イギリスではロンドン警視庁の対テロ部門が、ICC(国際刑事裁判所)関連事案として証人特定、犯罪事実の構造的調査を実施。
→ ただし個別起訴段階ではなく、証拠収集段階。
ドイツでは被害者16人+人権団体が告訴(2023年)しましたが、連邦検察が2023年9月に却下。
理由は詳細非公表ですが、一般に証拠要件、裁判管轄の実効性、被疑者不在などが壁になるケースが多いと考えられます。
トルコではNGOが2022年、拷問などで告訴しましたが、その後の当局対応は公表されていません。
フィリピン(ASEAN加盟国)では2023年、被害者5人がクーデター後の虐殺・宗教迫害を戦争犯罪として刑事告訴。国家検察庁に提出。
ただし、当局の最終判断は未公表/保留。 報道でも、司法省が受理・捜査に進むか検討する段階とされ、起訴・捜査開始までは至っていないとみられます。
インドネシア(ASEAN加盟国)では、告訴受理・刑事捜査は確認されていません。
インドネシアはASEAN内でも対ミャンマー外交を主導してきましたが、「内政不干渉」原則・地域外交調停役の立場から、国内刑事訴追には踏み込んでいないのが実態です。【ChatGPT】
********************
【ASEANが原則とする「内政不干渉」との兼ね合い】
ASEAN加盟国の司法対応が限定的なのは、主に次の構造要因によります。
*****ミャンマー軍政に対するASEAN加盟国の司法対応が限定的な要因****
①「内政不干渉」原則
ASEAN憲章の基本原則であり、ミャンマー軍政もこれを盾に批判。
実際、東ティモールの動きに対し軍政は「主権尊重・不干渉原則違反」と反発。
②外交・安全保障配慮
特にインドネシア・フィリピンは難民問題、国境犯罪、海洋安保、中国・米国との均衡外交などでミャンマーとの関係断絶を避けたい事情がある。
③被疑者拘束の実効性問題
普遍的管轄権の最大の壁:被告が自国に入国しない限り拘束困難。ASEAN域内では引き渡し政治判断が必要。
【ChatGPT】
***********************
そうしたASEANの実情からすれば、今回の東ティモールの告訴状受理は“踏み込んだ対応”と言えます。
****「内政不干渉」と司法手続きの距離****
ASEAN原則が主に縛るのは、外交声明、制裁、政府批判であり、普遍的管轄権、人権犯罪捜査、国内司法の受理までは直接拘束しません。
したがって東ティモール政府は外交的対立を煽らない形で司法プロセスを進めるという「二層構造」を取り得ます。【ChatGPT】
********************
ただ、それは東ティモール以外の加盟国も同様であり、その中で東ティモールが告訴状受理という明確な対抗を示したのは、やはり人権侵害・政治弾圧というものに対して、これを許さないという基本姿勢のあらわれと言えるでしょう。
もっとも、現実問題としては、経済基盤が弱くASEAN加盟国の支援が必要にもなると思われる東ティモールが今後も政治的に突出した対応をとり続けるのは難しいかも。