
(武装した連邦捜査官に護送されて連邦地裁に向かうマドゥロ大統領=5日、米ニューヨーク市【1月8日 CNN】)
【「太陽のカルテル」との主張を事実上撤回?】
周知のように、2003年のアメリカ主導のイラク攻撃(イラク戦争)は、イラクが大量破壊兵器(化学兵器、生物兵器、核兵器など)を保有しているという疑惑を主な根拠として開始されました。しかし、戦後に行われた調査の結果、大量破壊兵器やその開発計画は発見されませんでした。
同様のフェイクがトランプ政権によるベネズエラ攻撃・マドゥロ大統領拘束でも。
トランプ大統領のベネズエラ攻撃の本音が何にあったのか(体制転覆なのか、石油利権なのか・・・)は別にして、表向きの理由は最初から麻薬密輸対策でした。
*****マドゥロ大統領、米国で裁きの場に 「手出しできない存在」から一転****
(中略)
米検察当局は、マドゥロ氏が「太陽のカルテル」を率いていると主張。この組織は軍幹部や政府高官らで構成される緩やかなネットワークで、20年以上にわたりコロンビアのゲリラ指導者から数百万ドルに上る賄賂を受け取ってきたとされる。
検察によれば、ゲリラ側はコロンビア政府と戦うための資金を得るため、数千トンのコカインをベネズエラ経由で米国や欧州に送っていた。
検察によると、マドゥロ氏と前任者の故ウゴ・チャベス元大統領や政府高官らはベネズエラ経由でコカインを輸送するため、コロンビア革命軍(FARC)と連携した。米国は1997年から2021年までFARCをテロ組織に指定していた。FARCはすでに解散している。
検察は、1999年に大統領に就任したチャベス氏の下で、そして2013年に同氏が死去した後に就任したマドゥロ氏の下で、ベネズエラは「米国に対する武器としてコカインを使用することを優先した」と主張している。
マドゥロ氏は容疑を否定している。同氏は9月にドナルド・トランプ大統領に宛てた書簡で、「これはわが国に対して仕掛けられた最悪の類いのフェイクニュースであり、大陸全体に壊滅的な影響を及ぼす武力紛争へのエスカレーションを正当化するためのものだ」と記し、対立を避け対話を優先するよう求めた。(中略)
米国に向かうコカインの大半は、コロンビアの太平洋岸や隣国エクアドルから出荷されている。ベネズエラでの暴力的紛争を防ぐために活動する国際危機グループ(ICG)のアナリスト、フィル・ガンソン氏によると、太陽のカルテルはメキシコのカルテル「ハリスコ」などの麻薬組織とは異なり階層的ではなく、主に軍幹部で構成される分散型ネットワークであり、麻薬輸送を円滑にし、その見返りとして賄賂を受け取っている。
ガンソン氏は太陽のカルテルについて、「ベネズエラにはびこる腐敗の中で繁栄する、結束が弱く、ときに内部対立も抱える将軍や政府高官のグループを示す都合のよいラベルにすぎない」と語った。(後略)【1月3日 WSJ】
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ただ、トランプ政権が麻薬密輸船と認識する船舶を攻撃し始めた頃から、“アメリカへの麻薬密輸においてベネズエラは主に通過国であり、主要な役割は担っていない、軍高官の関与はあるが、組織的なもおではない”というのが一般的認識でした。
****米国は麻薬を運んでいるとされるベネズエラの船を攻撃しました。ベネズエラはアメリカに麻薬を送っているのでしょうか?(自動翻訳)****
(要旨)
麻薬とベネズエラの専門家は、同国が米国に流入する麻薬の密輸においては小規模な役割を果たしていると述べています。アメリカのフェンタニルの大部分はメキシコから、コカインの多くはコロンビア産です。
ベネズエラ政府は腐敗したシステムを持ち、軍将校が麻薬取引に関与することを許している。しかし、専門家によれば、ベネズエラ政府が米国への組織的な麻薬取引に関与している証拠はない。【2025年9月22日 POLITI FACT】
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そして「太陽のカルテル」なるものにも疑義が示されていました。
“ベネズエラ問題の専門家の中には、米検察が麻薬を巡るマドゥロ氏の関与を立証するのは困難だと見る向きもある。かつてベネズエラで勤務していた元米政府高官のブライアン・ナランホ氏は「法的に最大の問題となるのは、太陽のカルテルというものが存在し、しかも彼がそれを指揮していることを法廷で証明しなければならない点だ」と語った。”【1月3日 WSJ】
ここにきてトランプ政権の主張も変わってきたようです。
****「太陽のカルテル」実在せず? ベネズエラ、米司法省が主張撤回****
ベネズエラのマドゥロ大統領の影響下にあると米側が指摘してきた犯罪組織「太陽のカルテル」について、米司法省は実在するグループだとの主張を事実上撤回した。NYタイムズが8日までに報じた。
マドゥロ氏に対する2020年の起訴状で言及され、昨年には財務省が制裁対象に、国務省が外国テロ組織に指定していた。
司法省はマドゥロ氏が拘束された翌日の4日に起訴状の更新版を公表。マドゥロ氏が麻薬密輸に関与したとの主張は維持する一方、「太陽のカルテル」への言及は大幅に減り、利益供与システムや汚職文化を意味するとの説明に変更された。
起訴状は麻薬密売などで得た利益が軍や情報機関の関係者に流れたと指摘。「太陽」の名はベネズエラ軍高官の制服に太陽の紋章が付いていることに由来するという。
マドゥロ氏は20年3月、国際的な麻薬密売などの罪で米国で起訴された。当時の起訴状は、「太陽のカルテル」はマドゥロ氏が率いる麻薬密売組織で、コロンビアの左翼ゲリラFARCに武器を提供しつつ、米国にコカインの大量密輸を図ったとしていた。【1月9日 共同】
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そうなると、介入・拘束の正当性もあやふやになってきます。
【ロドリゲス暫定大統領、米との対立避ける姿勢も トランプ大統領、米は数年間運営に関与】
「ドンロー主義」を掲げるトランプ大統領の強引な軍事介入によって世界中に大きな波紋が広がっていますが、米国内においても議会無視の対応への批判があり、大統領の軍事行動を制約しようという動きも。
****米上院、ベネズエラでの軍事行動に反対する法案の審議前進を決定****
米上院は8日の採決で、ベネズエラでのさらなる軍事行動に反対する法案の審議を進めることを決め、トランプ大統領に対して異例の非難を行った。ベネズエラへの介入に対して、強力な政治的反対があることを示している。
共和党議員5人は、トランプ氏が米軍にベネズエラのマドゥロ大統領夫妻の拘束を命じる前に、議会との協議が欠けていたことを不服とし、トランプ氏の動きを抑えるための手続き上の投票で、民主党議員と協力した。
共和党議員の間では、長期的なベネズエラ駐留と、トランプ氏がベネズエラを無期限に「運営」する計画に対する懸念が高まっている。共和党の上院穏健派であるコリンズ議員、マ-コウスキー議員、ヤング議員が、党内のより孤立主義的なメンバーであるポール議員、ホーリー議員と投票で協力した。
上院は、この決議案を下院に送る前に可決しなければならないが、下院がこの法案を可決する可能性は低い。民主党上院議員は、さらなる攻撃のための資金提供を阻止するとしているが、そのような法案が大統領の拒否権を覆し、法律となる可能性は極めて低い。
トランプ氏と時折対立するタカ派を含め、ほとんどの共和党員は米軍のベネズエラ攻撃後、トランプ氏を支持している。
ヤング氏は投票後の声明で「意図的ではないにせよ、米軍が関与するベネズエラでの長期的な作戦は、外国との関わりを終わらせるというトランプ氏の目標とは正反対だ」と訴えた。
11月に中間選挙を控えるコリンズ氏も、ベネズエラで米軍が足止めされるリスクを投票の理由として挙げた。
トランプ氏は8日、この決議案が議会で可決された場合、拒否権を行使すると述べた。【1月9日 Bloomberg】
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ベネズエラのロドリゲス暫定大統領はアメリとの対立を回避する姿勢も。
****「米に従属せず」 主権主張も政治犯釈放で譲歩か―ベネズエラ暫定大統領****
南米ベネズエラのロドリゲス暫定大統領は8日、「われわれは従属も隷属もしていない」と述べ、トランプ米政権によるマドゥロ大統領の拘束後も米国には服従しておらず、国家主権を維持していると強調した。AFP通信が報じた。
トランプ氏はマドゥロ氏拘束後、ベネズエラを「運営する」と表明。数年にわたり統治に関与し、豊富な石油資源の権益を確保したい意向を示している。
ロドリゲス氏はこの日、米国の攻撃で死亡した兵士や民間人100人を弔う儀式に参列。席上、「誰も降伏しなかった。祖国のために戦った」と主張した。簡単には米国に追随しない姿勢を国民に訴えた形だ。
ただ、暫定政府は8日、マドゥロ政権時代に拘束された「多数のベネズエラ人と外国人」の政治犯の釈放を始めた。トランプ政権は暫定政権主要閣僚に「意向に従わなければ、マドゥロ氏と同じ運命をたどる」と警告していたと報じられており、釈放は米国への譲歩と受け止められている。【1月9日 時事】
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トランプ大統領は、ベネズエラが石油産業再建に協力しているとして、再攻撃はしないと表明しています。
****ベネズエラに数年関与、間接統治 トランプ氏、再攻撃は否定****
トランプ米政権がベネズエラを攻撃し、マドゥロ大統領を拘束してから10日で1週間。世界最大の埋蔵量を誇る同国の原油獲得を狙うトランプ大統領は数年関与し、間接統治を進める構えだ。
ベネズエラ暫定政府は8日、政治犯として収容されていた野党の元国会議員らを釈放。トランプ氏は9日、ベネズエラが石油産業再建に協力しているとして、再攻撃はしないと表明した。
ベネズエラ暫定政府は米政権との関係構築のため政治犯を釈放した。トランプ氏は自身のSNSで「和平に向けた兆候」と歓迎。両国の協力が進むかどうかが今後の焦点となる。
トランプ氏は8日放送のFOXニュースのインタビューで米企業などが少なくとも1千億ドル(約15兆7千億円)を投資する計画だと説明した。ライト米エネルギー長官は米主導下であれば中国による原油取引も容認すると話した。
トランプ氏は、石油産業再建が「多くの利益をもたらす。米国内外で石油価格の引き下げにつながる」とし、実利を優先する姿勢を鮮明にした。【1月9日 共同】
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【トランプ大統領 MAGAの「アメリカファースト」に相反する行為も、作戦が成功し、石油で利益があがれば批判も収まるとの目論み】
他国に軍事介入し、数年間“運営”に関与するというのは、MAGAの「アメリカファースト」に相反する行為であり、実際MAGA内部からの批判もありますが(1月5日まで連邦下院議員であったマージョリ―・テイラー・グリーン氏など)、トランプ大統領としては作戦が成功し、石油で利益があがれば、そうした批判もおさまるという読みなのでしょう。
****ベネズエラへの地上作戦実施――新たな戦争をするトランプ、なぜトランプは「アメリカファースト」を“捨てた”のか****
(中略)今回の地上作戦は、MAGA(米国を再び偉大にする運動に賛同する人々)が同調したトランプの政策の柱――「アメリカファースト」に相反する行為であることも確かだ。なぜ、トランプはアメリカファーストを“捨てた”のか。その背景には何が隠されているのか――。
傀儡政権
トランプにはベネズエラに地上作戦を実施しても、共和党支持者から支持を得られるという読みがあったのだろう。加えて、実施後の「統治」の仕方に関しても過去の政権の経験から学んでいると言えよう。
世論調査で定評がある米クイニピアック大学(東部コネチカット州)の全国世論調査(2025年12月11〜15日実施)によれば、米軍によるベネスエラ国内における軍事力行使に関して、全体では25%が「賛成」、63%が「反対」、12%が「分からない」と回答したが、共和党支持者に限ってみれば、52%が「賛成」、33%が「反対」、15%が「分からない」と答えた。
共和党支持者は過半数が軍事力行使を支持した。地上戦が成功を収め、(米国への麻薬密輸の主犯格である)マドゥーロ大統領を拘束し、ベネズエラの石油権益獲得の再獲得を確保できれば、「ひび」が入ったMAGAを元のように結束させることができると考えた節がある。
トランプはシナリオ通り、ベネズエラ国内における地上作成が成功を収めると、南部フロリダ州の邸宅「マーラ・ア・ラーゴ」で記者会見を開き、「統治する(govern)」や「占領する(occupy)」という言葉を用いずに、今後、米国がベネズエラを「運営する(run)」と語った。
“運営”には、トランプの意のままになる傀儡政権を作り、ベネズエラをコントロールするという意味が込められている。
一方、「統治する」と「占領する」を用いれば、MAGAから「アメリカファースト(米国第一主義)」ではないと批判されるからである。
米国は2000年代に入り、軍事介入を繰り返してきたが、軍事作戦が成功しても、政権交代や統治に失敗するケースが多々見られた。
例えば、イラクではフセイン政権が倒れると、国内に混乱が生じて、宗教対立が先鋭化し、過激派組織ISを生むことになった。リビアではカダフィ政権崩壊後、内戦が起こり、アフガニスタンでは、結局タリバンの復活を許した。
(中略)トランプ政権は、混乱や内戦を回避するために、マドゥーロ政権の統治機構をそのまま残し、“頭”のみを代えたのだ。ノーベル平和賞受賞者で反体制派指導者のマリア・コリーナ・マチャド氏や、2024年の大統領選挙で野党統一候補であったエドムンド・ゴンザレス氏を選択しなかった一因はここにあるのだろう。
米有力紙ニューヨーク・タイムズ(電子版1月6日付)は、マルコ・ルビオ国務長官兼大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を含めた政府高官が、もし米国が反体制派指導者を支持すると、ベネズエラはさらに不安定化し、国内に強靭な軍隊のプレゼンスが必要になると議論し、トランプを説得したと報じた。
トランプの焦点は石油の権益獲得にあり、ベネズエラの民主主義や自由主義の促進ではないのだ。たとえ独裁政権であっても、米石油企業の石油アクセスの保証がなされればよいのである。(後略)【1月9日 WEDGE】
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トランプの焦点は石油の権益獲得にあり、ベネズエラの民主主義や自由主義の促進ではない・・・「ドンロー主義」とかいう新しい言葉をひねり出さずとも、「帝国主義」という昔からの一般的な用語があります。