
(【10月16日 NHK】)
【「非国際的な武力紛争」にあたるとして、カリブ海国際水域で証拠を明示することなくベネズエラ船舶を麻薬船として攻撃・乗組員を殺害】
周知のようにアメリカでは深刻な薬物汚染が蔓延しており、その中心にあるのがフェンタニル。
1. 深刻な薬物危機の中心
フェンタニル(合成オピオイド)はヘロインの約50倍、モルヒネの約100倍の強力な鎮痛薬。
不法に製造されたものがコカインや偽造薬に混入し、過剰摂取死の主因となっている。
2. 死亡者数の急増
全米の薬物関連死亡の約7割がフェンタニルを含む。
年間約7万〜8万人がフェンタニル関連で死亡(過去10年で数倍に増加)。
3. 社会的・地域的影響
若年層やホームレス層にも拡大し、地方・中小都市にも深刻な被害。
警察・医療・福祉など公共サービスに大きな負担。
4. 背景と供給経路
主に中国製の前駆体化学品がメキシコ経由で密輸。
麻薬カルテルが製造・販売を主導。
5. 政府の対応
ナロキソン(解毒薬)の普及、治療アクセス拡充、密輸対策を強化。
しかし依然として「史上最悪の薬物危機」とされる状況が続く。【ChatGPT】
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こうした状況でトランプ大統領が「標的」にしているのが、かねてより反米左派として対立関係にあったベネズエラのマドゥロ大統領。“南米地域内の他の場所と比較すると、ヴェネズエラは麻薬密輸の主要拠点とは見なされていない”【後出BBC】とのことで、マドゥロ政権に対する政治的圧力の一環と受け止められています。
9月3日ブログ“米軍 ベネズエラの麻薬船攻撃 11人死亡 更に高まる米・ベネズエラの緊張関係”でも取り上げたように、8月には、総勢4,000名以上の兵員と複数の艦艇を南カリブ海に集結させ、ベネズエラからの麻薬船と判断した船舶を証拠を明らかにすることなく公海上で軍事的に攻撃し沈没・殺傷するという「砲艦外交」とも、また、法律上は超法規的殺人の疑義があるともされる作戦を展開しています。
****米軍によるベネズエラのギャングの麻薬密輸船攻撃の背景****
(1) テロ組織指定という政策シフト
トランプ政権は2025年前半にかけて、MS-13やシナロア・カルテルなど複数の中南米ギャング・カルテルを「外国テロ組織」に指定しました。この法的扱いにより、軍事行動が可能になる布石となっています。
(2) 軍事展開と地域への圧力
8月には、総勢4,000名以上の兵員と複数の艦艇が、南カリブ海に集結しました。これは、1989年のパナマ侵攻以来最大規模とも言われる反麻薬部隊であり、「ガンボート・ディプロマシー(砲艦外交)」とも評されています。
(3) マドゥロ政権との緊張関係
米国はマドゥロ大統領をカルテル・デ・ロス・ソーレス(Cartel de los Soles)と結びつけ、2025年7月にはその組織を「グローバル特別指定テロリスト」に指定し、逮捕報奨金も5,000万ドルに引き上げました。
(4) インテリジェンスの見解との対立
米情報機関による2025年2~3月ごろの評価では、マドゥロ政権がTren de Araguaを指導・運営しているという明確な証拠はなく、むしろ独立した犯罪組織と見られる、とされました。この点は、トランプ政権の主張と齟齬があります。【ChatGPT】
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その後もトランプ政権は「武力紛争」と位置づけ、米軍によるベネズエラ船舶への攻撃が続いています。
****アメリカ、ヴェネズエラ沖でまた船を攻撃 6人死亡****
アメリカ政府は14日、ヴェネズエラ沖で再び船を攻撃し、6人を殺害した。ドナルド・トランプ大統領は自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、この船が「麻薬テロリスト」に属しており、「麻薬を密輸していた」と発表した。
トランプ政権によるこうした攻撃は今回で5回目。いずれも国際水域で麻薬密輸の疑いがある船舶を標的としている。9月以降、これまでに27人が殺害されたと報じられているが、アメリカは船舶の詳細や乗船者の身元について証拠や情報を提供していない。
一部の法律専門家は、アメリカが国際法に違反していると指摘している。コロンビアやヴェネズエラなどの周辺国も、この攻撃を非難している。
トランプ氏は「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、「この船舶が麻薬を密輸しており、違法な麻薬テロ組織と関係していて、密輸に使われる既知の航路を航行していたことを情報機関が確認した」と述べた。
また、空中監視による映像も投稿しており、水上の小型船がミサイルによって攻撃され、爆発する様子が映っている。
トランプ氏は、乗組員の国籍や、所属しているとされる麻薬密輸組織については明言していない。一方で、米軍関係者に負傷者は出ていないと付け加えた。
一連の攻撃をめぐっては最近、米連邦議会に送付されたとされる内部文書が流出した。米メディアは、トランプ政権はアメリカが麻薬カルテルとの「非国際的な武力紛争」にあると判断したと報じている。アメリカはまた、複数の軍艦をカリブ海に展開している。
アメリカは、麻薬密輸の疑いがある船舶に対する攻撃を自衛措置と位置づけている。しかし多くの司法専門家が、このような軍事行動の合法性に疑問を呈している。
この状況を「武力紛争」として位置づけることは、トランプ氏にとって戦時権限の行使の正当化である可能性が高い。例えば、暴力的な脅威を示していない者を「敵戦闘員」として殺害したり、人々を無期限に拘束したりすることも、その対象に含まれる。
ヴェネズエラでは一部で麻薬密輸が行われ、これらの船舶が出港したとされる地域では一部のカルテルが活動しているのは事実だ。しかし、南米地域内の他の場所と比較すると、ヴェネズエラは麻薬密輸の主要拠点とは見なされていない。
そのため多くの人々は、今回の攻撃がヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領に軍事的圧力をかけるための広範な政治活動の一環だと考えている。
この攻撃は、アメリカがマドゥロ氏の麻薬密輸容疑での逮捕につながる情報に対して5000万ドル(約75億6000万円)の報奨金を提示したと発表した後に行われた。マドゥロ氏の大統領選出は国際社会の多くから認められていない。
ヴェネズエラ政府は、最近の攻撃に対して怒りを示している。
マドゥロ氏は、麻薬密輸に関与しているというアメリカの主張を否定。別の政府関係者は、トランプ氏が投稿した映像の信憑(しんぴょう)性に疑問を呈している。【10月15日 BBC】
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このあたりの「非国際的な武力紛争」云々のトランプ政権の主張ついては、法的にはかなり強引との批判もあります。“トランプ氏に「殺しの特権」はあるか 手荒な麻薬密輸対策が波紋”【10月18日 毎日】
なお、米軍が4日にベネズエラ沖で違法薬物を積載していたとする船舶を攻撃したとトランプ大統領が公表した件については、コロンビアのペトロ大統領が8日、“Xへの投稿で「最後に爆撃された船はコロンビア船で、コロンビア国民が乗っていたことを示す兆候がある」とし、「中南米とカリブ海諸国全体に対する攻撃だ」と述べた。”【10月9日 ロイター】とのことで、情報が錯綜しています。
コロンビアのペトロ大統領も反米左派で、9月26日、国連総会出席で訪れていたNYの路上で「本日、コロンビア大統領はニューヨーク市の路上で、米兵に命令を拒否し暴力を扇動するよう促した」(米国務省)という反トランプ演説を行い、ビザを取り消されるといった事態にもなっています。
【陸上の麻薬カルテル関連施設に対する攻撃拡大の検討、CIAによる秘密工作承認とエスカレーション】
トランプ政権は海上の船舶への攻撃だけでなく、陸上の麻薬カルテル関連施設に対する攻撃拡大も検討していると報じられています。
****トランプ米大統領、ベネズエラとの交渉停止-陸上の標的攻撃も検討****
トランプ米大統領がベネズエラとの外交交渉を中断した。事情に詳しい関係者が明らかにした。政権内でルビオ国務長官の強硬姿勢が支持され、軍事的緊張が一段と高まる可能性がある。
トランプ氏は、ベネズエラとの外交を主導してきた長年の側近である米特使のリチャード・グレネル氏に対し、ベネズエラのマドゥロ政権との交渉を停止するよう指示した。グレネル氏はこれまで数日おきにベネズエラの当局者と協議を重ねていたという。非公開情報だとして関係者が匿名を条件に語った。
この決定は米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が先に報じていた。
対ベネズエラ外交を巡り、ルビオ氏とグレネル氏とのスタンスの違いが表面化していたが、マドゥロ政権に対する強硬策を主張してきたルビオ氏の意見が通ったもようだ。 ホワイトハウスと国務省は、コメント要請にすぐに応じなかった。
トランプ氏はこれまでに、海上の麻薬密輸船を標的にした攻撃を複数回命じている。
最近では陸上の麻薬カルテル関連施設に対する攻撃拡大を示唆しており、ベネズエラの軍事目標に対する高リスクの攻撃を伴う可能性がある。【10月8日 Bloomberg】
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もともとが麻薬対策というより、マドゥロ政権への政治圧力が主眼とみられていますので、単に海上での船舶攻撃、陸上の麻薬カルテル関連施設への攻撃にとどまらず、CIAによる秘密工作(体制転覆活動とか、場合によっては暗殺も含まれるでしょう)も承認されています。
****トランプ氏、ヴェネズエラでのCIA活動を承認したと認める マドゥロ大統領は「体制転換はだめ」****
アメリカのドナルド・トランプ大統領は15日、南米ヴェネズエラでの米中央情報局(CIA)の秘密工作を承認したとの報道について、正しいと認めた。ヴェネズエラの指導者らは憤慨している。トランプ氏はヴェネズエラから麻薬がアメリカに流入しているとし、対応を強めている。
米紙ニューヨーク・タイムズは、トランプ氏がCIAに対し、ヴェネズエラにおいて作戦を一方的に、あるいは広範な米軍事活動の一環として実行するのを承認したと報じた。
CIAは長年、南米で活動している。ただ、ヴェネズエラで作戦を計画しているのかや、不測の事態に備えた計画が準備されているのかは不明。
トランプ氏は15日に大統領執務室で、この報道について記者団から、「なぜCIAがヴェネズエラに入り込むのを承認したのか」と質問されると、「二つの理由から承認した」と返答。
「一つは、(ヴェネズエラが)自分たちの刑務所の収監者をすっかりアメリカに移したことだ」、「もう一つは麻薬だ。ヴェネズエラからたくさんの麻薬が入ってきていて、多くは海から入ってくる。それは見て明らかだが、陸でも止めようとしている」と述べた。
アメリカの情報機関の活動は通常、秘密に包まれており、軍最高司令官である大統領が作戦について認めるのは極めて異例。
トランプ氏は、CIAの目的がヴェネズエラのニコラス・マドゥロ政権の打倒なのかと問われると、「私に答えを求めるとしたら、ばかげた質問ではないか」と返した。
アメリカはヴェネズエラ沖のカリブ海で、麻薬を運搬していた疑いのある船を、ここ数週間で少なくとも5回攻撃。計27人を殺している。国連が任命した人権専門家はこれを「超法規的処刑」だとしている。
直近の14日の攻撃では、ヴェネズエラの海岸付近で小型船を標的にし、6人を殺害した。トランプ氏は自身のソーシャルメディアのトゥルース・ソーシャルへの投稿で、「この船舶が麻薬を密輸し、違法な麻薬テロ組織と関係していて」、密輸に使われる既知の航路を「航行していたことを情報機関が確認した」と主張した。
これまでの攻撃と同様、米当局は、この船を運航していたとされる麻薬密売組織や、乗っていたとみられる人の身元について明らかにしていない。
体制転換への懸念
南米地域の麻薬取引では、ヴェネズエラの役割は比較的小さい。しかし同国では、米軍が南米地域で存在感を高めていることを受け、攻撃されるのではないかとの懸念が膨らんでいる。
トランプ氏は、カリブ海に軍艦8隻、原子力潜水艦1隻、戦闘機などを展開している。ホワイトハウスは、麻薬密輸の取り締まりが目的だとしている。
こうしたなか、ヴェネズエラのマドゥロ大統領は15日、テレビで、事態のエスカレーションに警告を発するとともに、アメリカとの和平を訴えた。
「体制転換はだめだ。アフガニスタン、イラク、リビアなどでの、終わることのない失敗した戦争を思い起こさせる」とマドゥロ氏は主張。「CIAが画策するクーデターはだめだ」と訴えた。そして、「私の話を聞いてほしい、戦争はノー、平和はイエス、アメリカの人々よ」と付け加えた。
ただ、これよりも先にマドゥロ氏は、カラカス郊外のペタレと、隣接するミランダ州で、軍事演習を行うよう指示した。同氏はメッセージアプリ「テレグラム」で、石油資源の豊富な自国を守るため、軍、警察、民兵を動員しているとした。
マドゥロ氏は昨年の大統領選挙で3選を発表したが、多くの国が選挙の正当性を問題視している。アメリカはマドゥロ氏の麻薬密輸容疑での逮捕につながる情報に対し、5000万ドル(約75億6000万円)の報奨金を設定している。【10月16日 BBC】
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【マドゥロ大統領からは体制維持を前提に自身の亡命の打診も】
常識が通用しないトランプ大統領(・・・と思わせることがトランプ大統領のやり方ですが)の強引な対応にマドゥロ大統領も身の危険を感じたのか、アメリカに対し自身の亡命を打診した旨の報道があります。
ただ、打診の時期は。4月と9月とのことですから、それが本当なら今回のエスカレーションの前の話になります。
****マドゥロ氏、亡命提案か ベネズエラ、米国は却下****
米紙マイアミ・ヘラルド電子版は16日、独裁化を強めるベネズエラの反米左派マドゥロ政権がトランプ米政権に対し、マドゥロ大統領の亡命を含む権力移行案を提示していたと報じた。4月と9月の2回にわたって仲介役のカタール政府を通じて伝えられ、米政府は却下したという。
4月の案は、マドゥロ氏が身の安全の保証を条件に大統領を辞任し、原油の確認埋蔵量で世界一を誇るベネズエラの石油業界への米企業参入の橋渡しをする内容だった。9月の案は、マドゥロ氏がカタールかトルコに亡命し、ロドリゲス副大統領らが暫定政権を率いる計画だった。
マドゥロ政権は現在の政治体制を崩壊させず平和的に政権移行を図りたい考え。一方、米政府は、現政権下の犯罪組織を保全するのが目的だとして却下したとしている。
トランプ政権は、マドゥロ氏が犯罪組織を率いて国際的に麻薬を流通させていると批判している。
マドゥロ政権は、今年のノーベル平和賞に選ばれた野党指導者マリア・コリナ・マチャド氏が柔軟性に欠けるとみており、いずれの案にも扱いが含まれていなかった。【10月17日 共同】
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これでもしマドゥロ政権が倒れることになればトランプ大統領は、ノーベル平和賞に選ばれた野党指導者マリア・コリナ・マチャド氏は現実には何も達成できていないが、自分はマドゥロ政権を終わらせたと、(だからノーベル平和賞にふさわしかったには自分だと)世界に吠えるのでしょう。
それはともかく、周知のように南シナ海では中国が領有権拡大を目指して好き勝手にふるまっていると批判されていますが、そんな中国でもいきなり他国の船を爆撃して乗務員を殺害することはありません。せいぜい放水銃です。
それを考えるとカリブ海におけるトランプ政権の超法規的殺人・軍事行動はかなり異常なことではあります。