
(シリア北部アレッポのクルド人居住区から逃れる住民を支援するシリア軍兵士【1月10日 ARAB NEWS】)
【暫定政府軍、北部拠点都市アレッポからクルド人勢力を排除か】
中東シリアでは2024年12月、イスラム過激派「ヌスラ戦線」を前身とする反体制派の武装組織「ハヤト・タハリール・シャム(HTS)」がアサド政権を崩壊させ、シャラア暫定政権が発足しましたが、シリア全土に支配権は及ばず、北部はクルド人勢力が支配し、南部にはイスラエル軍が駐留しています。
今年に入って、その双方で動きが見られます。
先ず北部。 北部の拠点都市アレッポは、全体としては暫定政府(政府側)の支配の都市でしたが、クルド人居住が多い一部地区(シェイク・マクスード、アシュラフィエなど)はクルド勢力の支配地域となっていました。
この地域は1975年以来のクルド居住区として地域色が強く、クルド主体の勢力(クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍(SDF)」の関連組織や地元警備組織)が支配または管理してきました。
今回、そうしたアレッポにおけるクルド人勢力の支配区域をめぐって、暫定政府軍とクルド人勢力との間で衝突が起きました。暫定政府側がアレッポ全体の支配権を確立しようとする動きのように見えます。
もともと、シリア暫定政府にとって北東部を実効支配するクルド人勢力との統合をどのように進めるかが大きな課題となっていますが、その統合が停滞するなかでの両者の戦闘となりました。
****シリア北部で衝突、14万人退避 死傷者も 暫定政権とクルド人勢力****
シリア第2の都市・北部アレッポで、暫定政権とクルド人主体の旧反体制派「シリア民主軍」(SDF)などの間で衝突が起き、これまでに市民約14万人が退避する事態となっている。
暫定政権にとってクルド人勢力の統合は大きな課題だが、対立が改めて浮き彫りになった形だ。
AP通信などによると、アレッポとその近郊での戦闘は6日から始まった。
双方による砲撃や無人機による攻撃などが相次ぎ、クルド人が多く住む地域では少なくとも市民8人が死亡。暫定政権の支配地域でも市民7人と兵士1人が死亡したという。市民の負傷者も数十人に上っている。
SDFはシリア北東部を支配しており、シリア内戦では米軍の支援を受けて過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦を行っていた。一方、暫定政権はクルド人勢力と敵対するトルコの支援を受けており、対立が続いてきた。
2024年12月のアサド政権の崩壊後、暫定政権はSDFを国軍に統合する方針を掲げ、25年3月には年内に統合することで合意していた。だが、その後も意見の相違が続き、大きな進展はなかった。
AP通信によると、SDF、暫定政権の双方と関係を築く米国の政府関係者は8日、双方に自制を求め、仲介を試みていると明らかにした。トルコ国防省も同日、「事態を注視している」としつつ、「シリアの要請があれば必要な支援を行う」と述べ、関与する可能性も示唆した。
シリアはアラブ人が大半だが、クルド人やアルメニア人、パレスチナ難民なども暮らしている。暫定政権は少数派も含む包括的な政府の樹立を目指しているが、アサド政権下の独裁体制や内戦により民族や宗派間の分断が深まっており、国内融和が課題となっている。【1月9日 毎日】
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シリア国防省は9日、停戦の発表も。
****シリア暫定政府、アレッポでの停戦発表 クルド人勢力と数日にわたって戦闘****
シリア国防省は9日、暫定政府軍とクルド人勢力主体の民兵組織シリア民主軍との間で数日にわたって戦闘が行われ多くの市民が避難する中、北部アレッポでの停戦を発表した。
暫定政府軍は6日からアレッポで、米国が支援するSDFとの戦闘を繰り広げていた。双方は、戦闘のきっかけについて互いに非難し合っている。
戦闘では少なくとも21人が死亡しており、この数字は約1年前に暫定政権が権力を握った後では最悪となっている。
国防省は住宅街での新たな軍事的激化を防ぐため、アレッポのシェイクマクスード地区、アシュラフィエ地区、バニゼイド地区での停戦を午前3時(日本時間9日午前6時)から発効するとの声明を出した。クルド人戦闘員は、午前9時までにこれらの地域から離れるよう命じられている。
国防省はこの目的として、戦闘によって避難した市民が「安全と安定の空気の中で日常生活を再開できるようにすること」だと付け加えた。
シリア国営テレビは、約1万6000人が避難していると伝えている。
SDFは昨年3月、暫定政府との統合について合意していたものの、クルド人側の地方分権統治の要求など、意見の相違で停滞が続いている。 【1月9日 AFP】AFPBB News
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しかし、クルド人戦闘員は撤退しなかったようで、戦闘はその後も続き、結局暫定政府軍が実力でクルド人勢力をアレッポから排除したようです。
****シリア北部で暫定政権軍と民兵組織が衝突、市民14万人が避難…政権側「掃討を終えた」発表も不透明****
(中略)
暫定政権軍は10日に「掃討を終えた」と発表したが、SDFの一部が潜伏を続けているとの情報もあり、事態が収束に向かうかは不透明だ。
AFP通信は9日、衝突による死者が少なくとも21人に上ったと報じた。暫定政権は9日未明に停戦を宣言し、SDF側にアレッポからの撤退を要求したが、応じなかったため、掃討作戦を進めていた。(後略)【1月10日 読売】
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停滞している暫定政府とクルド人勢力との統合については以下のようにも。
****-アメリカの調停****
3月の統合合意は昨年実施される予定だったが、地方分権を求めるクルド人の要求など、意見の相違が進展を妨げている。
(シリア北東部のクルド人行政当局の高官である)アフマド氏は、「米国が仲介役を務めている。”合意に達するよう圧力をかけてほしい “と願っている」と述べた。
ある外交筋はAFPに対し、トム・バラック特使がダマスカスに向かったと語った。
バラック特使は土曜朝の声明で、ヨルダン外相と情勢について協議したと述べ、両者とも「停戦を強化し、アレッポからのシリア民主軍(SDF)の平和的撤退を確保し、市民の安全を保証する」ことを望んでいると表明した。
また、統合協定の実施を求めた。
トルコはシリアと900キロ(550マイル)の国境を接しており、クルド人勢力を国境から追い出すために次々と攻勢をかけている。
シリアのアフメド・アル・シャラア大統領は、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領との電話会談でこの状況について話し合い、アレッポにおける「違法な武装勢力の存在を終わらせる」決意を語ったという。
国連のステファン・デュジャリック報道官は、戦闘による市民への影響に憂慮を表明し、すべての当事者に対し、「3月10日の合意の完全な履行を確実にするため、速やかに交渉に戻ること」を求めた。
インターナショナル・クライシス・グループのシリア上級アナリスト、ナナー・ハワック氏は、今回の衝突の再燃は、少数派諸派の信頼を獲得し、14年間の内戦の後、国をまとめ直す政府の能力に疑問を投げかけるものだと述べた。
「戦闘がエスカレートすれば、国際的なアクターはシリアの異質な社会を統治するダマスカスの能力を疑うだろう」と彼は付け加えた。
シリア当局は少数派の保護に力を入れているが、昨年はアラウィー派とドゥルーズ派のコミュニティが宗派間の流血に見舞われた。【1月10日 ARAB NEWS】
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【トランプ大統領仲介で、南部に進駐するイスラエル軍との連絡調整メカニズムを設立 ただし、イスラエル軍の撤退については進展なし】
南部では、アサド政権崩壊の混乱に乗じる形で、イスラエルが自国の安全保障を口実にシリアへ侵攻。南部の一部地域に駐留を続けているほか、シリア国内の軍事施設にも断続的に空爆を行っています。
シャラア暫定政権にとっては、前述の北東部クルド人勢力との統合に加え、この南部に進駐するイスラエル軍への対応が急務となっています。
シャラア暫定政権との関係強化を進めるトランプ大統領が、シャラア暫定政権とイスラエルの仲介を買って出たようです。
一応、連絡調整の仕組みは設置されたものの、イスラエル軍の撤退に向けた大きな進展はなかったようです。
****トランプ政権 イスラエル・シリアの共同枠組み設置決定と発表****
アメリカのトランプ政権は、対立が続く中東のイスラエルとシリアが緊張の緩和に向けて共同の枠組みを設置することを決めたと発表しました。アメリカの仲介で両国の関係改善につなげるねらいがあるとみられますが、立場の隔たりは大きく先行きは不透明です。
イスラエルとシリアは長年対立し、おととしシリアのアサド政権が崩壊してシャラア暫定大統領が就任したあとも、イスラエル軍が少数派の保護などを名目に首都ダマスカスを空爆するなど、緊張関係が続いています。
こうした中、アメリカ国務省は6日、イスラエルとシリアの高官がアメリカの仲介で協議を行い、共同の枠組みを設置することを決めたと発表しました。
連絡窓口となるこの枠組みで、両国は情報の共有や軍事的な緊張の緩和、それに外交的な関与に向けて調整を行うとしています。
アメリカのニュースサイト、「アクシオス」は仲介にはガザ情勢やウクライナ情勢も担当するウィトコフ特使やトランプ大統領の娘の夫であるクシュナー氏らも参加したと伝えています。
また、トランプ大統領自身も先月、イスラエルのネタニヤフ首相と会談した際にシリアとの協議を行うよう求めたということです。
アメリカとしては共同の枠組みの設置をきっかけに両国の関係改善や中東の安定化につなげるねらいがあるとみられますが、イスラエルがシリアとの緩衝地帯で軍の駐留を続けるなど両国の立場の隔たりは大きく先行きは不透明です。【1月7日 NHK】
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対立が続くシリアとイスラエルは6日、軍事的緊張の緩和などを目的とした連絡調整メカニズムを設立することで合意した。ただ、シリア側に侵攻しているイスラエル軍の撤退に向けた大きな進展はなかったとみられる。
ロイター通信などによると、協議は米国の仲介で5、6日にパリで開かれ、イスラエルがシリア国内で軍事活動を停止することで合意したという。
ただ、シリアの当局者はロイター通信に対し、イスラエル軍の撤退に向けた拘束力のある取り決めがなければ、協議の進展は不可能だとの見方を示した。【1月7日 毎日】
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【シャラア暫定政権との関係を強化するトランプ大統領の思惑は?】
シャラア暫定政権との関係を強化するトランプ大統領としては、国内外にアメリカと自身の存在をアピールしたい思惑もあるようです。
****アメリカとシリア暫定政府の関係強化の状況****
1. トランプ政権による制裁解除・緩和
アメリカのドナルド・トランプ大統領は、シリア内戦後の暫定政府(アフマド・アル=シャラア暫定大統領率いる新政権)に対して、従来の制裁を段階的に解除・緩和する措置を取っています。
2025年6月末、トランプ大統領は大統領令で対シリア制裁プログラム自体を廃止し、制裁対象の個人・団体をリストから削除するなどの措置を発表しました。これには暫定政府や中央銀行などとの取引を許可する一般許可の発行も含まれています。
一部の制裁については、引き続き対象が残るものの(アサド政権関係者や人権侵害関係者など)、暫定政府に関わる制裁は大きく解除または緩和されています。
2. 公式訪問・対話の再開
2025年5月、トランプ大統領はリヤドで暫定大統領のシャラアと会談し、制裁解除を表明しました。これはアメリカ大統領がシリアの現政権首脳と面会した顕著な出来事です。
その後、ホワイトハウスでの正式会談も行われ、米国は暫定政府の制裁緩和や人道支援の延長などを発表しています。
3. 国際舞台での承認・関与
アメリカは国連安保理でも暫定大統領に対する制裁やテロ指定解除を支持したり、暫定政府の正統性を認める方向で動いています。これによって、暫定政権の国際的な関与や支援の道が広がっています。
トランプ大統領の思惑と意図
トランプ政権がシリア暫定政府との関係を強化する背景には、いくつかの戦略的・政治的な要因があります。
1. 中東地域の安定化と米国利益
トランプ政権は、シリアの政権交代後の安定化が中東全体の安定と米国の安全保障利益につながると考えているようです。制裁解除を通じて暫定政府を支援し、テロ組織の再台頭や地域紛争の拡大を防ごうとしています。制裁緩和は地元経済の復興と政治的統合を促す狙いとして打ち出されています。
2. 国際的ポジションと外交的成果
トランプ大統領は、シリア問題でアメリカを「再び重要な仲介者」に位置付けることで国際的影響力を強調しようとしている可能性があります。暫定政府との関係強化は、アメリカ主導の和平プロセスや地域安全協力(例えばシリアとイスラエル間の交渉支援)にも結び付けられています。
3. 政治的アピールと支持基盤への訴求
国内政治の観点では、トランプ大統領は対シリア政策を通じて中東問題への関与を「米国の安全保障優先」として訴える狙いもあると分析されています。制裁解除や関係正常化は、対テロ戦争の成果や外交的実績として支持基盤向けのアピールポイントにもなり得ます。これは他の外交課題や選挙戦略とリンクする側面もあります。
まとめ
要約すると、次のようになります。
アメリカはシリア暫定政府との関係を強化している。制裁解除・訪問・国際的承認支援などが進展しており、暫定政府との対話と協力が深まっています。
トランプ大統領の思惑としては、地域の安定化、米国の外交的立場の強化、中東政策の成果として国内政治へのアピールという複数の意図があると考えられます。【ChatGPT】
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ただ、実利で動くトランプ大統領ですので、「地域の安定化、米国の外交的立場の強化、中東政策の成果として国内政治へのアピール」といったもの以外に、更にその先にある、より実利につながるものを考えているのではないでしょうか。