
(【3月13日 日経「ロシア、イラン攻撃で「漁夫の利」 原油高騰が戦費調達の追い風に」】
【イラン情勢による原油価格高騰でロシアは莫大な利益】
ホルムズ海峡危機で相対的に一番得をする可能性がある国として、エネルギー市場の分析でよく挙げられるのはがロシアです。
****ホルムズ海峡危機で相対的に一番得をする可能性がある国・・・ロシア****
これは政治的というより 石油市場の構造によるものです。
① 原油価格が上がるほどロシアは利益
ロシアは世界最大級のエネルギー輸出国です。 もしホルムズ海峡が不安定化すると世界の石油供給の約20% が影響を受け、原油価格が急騰します。
ロシアの原油価格と財政の関係を見ると、原油価格60ドルでは国家収入低め、80ドルで安定、100ドル以上では巨額黒字という関係があります。
つまりホルムズ海峡の混乱で石油価格が上がると収入が増える構造です。
② 中東産原油の代替としてロシアが売れる
ホルムズ海峡が危険になると日本・韓国・中国・インドなどが 供給源を分散します。
その時に増えるのがロシア原油・カスピ海原油、つまり輸送リスクの低い原油です。
③ 欧州のエネルギー事情
欧州はウクライナ侵攻以降、ロシアエネルギー依存を減らしました。
しかし、中東供給が不安定になるとLNG価格・石油価格が上昇し、ロシア産の割安資源が再び魅力になります。
④ 米国の外交資源が中東へ・・・もう一つの重要な点。
米国がイラン危機でホルムズ海峡に集中すると、米国の戦略資源が中東へ再配分されます。
その結果、ウクライナ支援の優先度低下、欧州安全保障の注意分散という可能性があります。
⑤ ロシアが直接戦争に巻き込まれない
中東危機ではロシアは地理的に遠く、自国輸出は陸路・別ルートのため供給側の勝者になりやすいです。
【3/12 ChatGPT】
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【更に、アメリカはロシア産原油に関して、一時的・限定的に対ロシア制裁を緩和】
上記の事項だけでもアメリカのイラン攻撃はロシアにとっては好都合ですが、更に、世界的な石油価格高騰に対応するため、アメリカ財務省は12日、海上輸送中のロシア産原油や石油製品の購入を約1か月間、各国に認めると発表しました。
英紙フィナンシャル・タイムズは「この戦争の最大の勝者はロシアだ」とも指摘しています。
****アメリカが制裁一時緩和、原油高騰対策でロシア産購入認める…英紙「この戦争の最大の勝者はロシア」****
米財務省は12日、海上輸送中のロシア産原油や石油製品の購入を約1か月間、各国に認めると発表した。イラン攻撃に伴う原油高騰対策の一環で、ウクライナ侵略を理由としたロシアへの制裁を緩和する。
米東部時間12日時点で船積みされている原油などが対象。4月11日午前0時1分までの措置としている。現在、世界の海上には計約1億2000万バレルのロシア産原油があるとされる。
国際エネルギー機関(IEA)は12日、攻撃の影響で3月の世界の原油供給量が約1割(日量800万バレル)減るとする報告書を公表した。米国はロシア産原油の取引規制などを行ってきたが、イラン攻撃で原油の供給不安が広がり、方針転換を余儀なくされた。ベッセント財務長官は12日、今回の措置が「ロシアに大きな利益をもたらすものではない」と主張した。
英紙フィナンシャル・タイムズは12日、足元の原油高で、ロシアに1日あたり1億5000万ドル(約240億円)の追加収入が発生していると報じた。3月末までの累計では最大49億ドルになるとし、「この戦争の最大の勝者はロシアだ」とした。制裁緩和で収入はさらに増える可能性がある。【3月13日 読売】
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もちろん、石油価格高騰による財政収入増加や上記制裁緩和による収入増は一時的なもので、イランが今回戦争で国際的影響力を著しく減らし、アメリカの影響力がイランにも及ぶ・・・といった長期的国際情勢の変化が起きると、ロシアにとってはマイナスの影響が生じます。
【ウクライナ・欧州は反発 ロシアは「ロシア産原油がなければ、世界のエネルギー市場は安定を維持できない」と更なる制裁緩和を求める】
ただ、一時的とはいっても、現在ロシアとギリギリのところで戦っているウクライナにすれば、制裁緩和は納得できないところでしょう。
****ゼレンスキー氏、ロ産原油購入容認に反発****
ウクライナのゼレンスキー大統領は13日、訪問先のパリで記者会見し、米国がロシア産原油購入を容認したことについて「ロシアに利益を与えることになり、平和に役立たない」と述べ、反発した。【3月13日 共同】
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ウクライナだけでなく、ロシアの脅威を深刻に感じている欧州も、対ロシア制裁緩和には納得していません。
****対露エネ制裁の一時緩和「間違っている」とメルツ独首相 トランプ政権発表に欧州反発****
トランプ米政権がイラン攻撃による原油高騰を抑えるため、ウクライナを侵略するロシアへのエネルギー制裁を一時的に緩和すると発表したことに対し、欧州主要国が13日、一斉に異議を唱えた。ドイツのメルツ首相は同日、ノルウェー訪問中に「間違っていると思う」と述べ、米国の決定を正面から反対した。
寄り添う立場一転、異例の対米批判
メルツ氏は「問題は価格であって供給量ではない」として、制裁緩和で一時的にロシア産石油の供給量を増やしても、市場の不安は解決できないという立場を示した。
メルツ氏はこれまで、イラン攻撃が国際法に抵触するか否かの発言を避け、米イスラエルに寄り添う立場をとっており、今回の発言は異例の対米批判となった。
フランスのマクロン大統領は13日、パリで行った記者会見で、「原油高騰は対露制裁緩和を見直す理由にならない。これは先進7カ国(G7)や欧州の立場であるはずだ」と強調。11日に行われたG7首脳のオンライン会議が、対露制裁の維持で合意したことに言及した。
記者会見には、訪仏したウクライナのゼレンスキー大統領も同席。ゼレンスキー氏は、米国の制裁緩和で「ロシアは100億ドル(約1兆6千万円)の戦費を得ることになる。平和につながらない」と訴えた。
欧州連合(EU)のコスタ大統領も、米国の動きについて「懸念している。欧州の安全保障にかかわる」とSNSに書き込んだ。(後略)【3月14日 産経】
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****ロシアが中東紛争のおかげでいっときの猶予が得られると考えているなら「大間違いだ」 マクロン氏****
米国が対イラン攻撃に伴って高騰した原油価格の抑制を狙って対ロシア制裁を緩和したことを受け、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は13日、ロシアが中東での紛争によって自国に対する圧力が緩和されると考えているなら「大間違いだ」と述べた。
マクロン氏はパリでウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した後、「ロシアは今、イランでの戦争のおかげでいっときの猶予が得られると考えているかもしれないが、それは大間違いだ」と述べた。
マクロン氏は13日の記者会見で、今週初めに開催したG7サミットで「原油価格の高騰がいかなる状況下でも、対ロシア制裁政策の見直しにつながるものであってはならないことを再確認した」と述べた上で、さらに、米国の制裁緩和は「限定的」であり、政策の全面的な転換にはならないとの見解を示した。
「米国が例外的かつ限定的な措置として下した決定は、G7の枠組みの中で米国自身が決定した制裁措置の永続的かつ広範な撤回を意味するものではない」と述べた。(後略) 【3月14日 AFP】
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ロシアは「ロシア産原油がなければ、世界のエネルギー市場は安定を維持できない」として、さらなる制裁緩和を求めています。
****ロシア、米国にさらなる制裁緩和を要求****
ロシアは13日、中東での紛争によって混乱した世界のエネルギー市場を安定させるため、米国に対し、対ロシア制裁をさらに緩和するよう求めた。
米国は、ロシアによるウクライナへの全面攻撃を理由に課していた制裁の一部を緩和したが、西側同盟国はロシア産原油の販売益がウクライナ侵攻の資金源となっていると反発している。
米イスラエルによる対イラン攻撃と、それに対するイランによる湾岸諸国への報復攻撃により、原油輸送の要衝ホルムズ海峡は事実上封鎖され、世界の原油価格は急騰している。
原油価格が1バレル100ドル(約1万5900円)を超える水準で推移する中、米国は世界有数の産油国・輸出国であるロシア産の原油について、海上輸送中のものの販売を一時的に認めた。
ロシア大統領府(クレムリン)のドミトリー・ペスコフ報道官は記者会見で、世界のエネルギー市場の安定化の必要性に関して、米ロの利害は「一致している」とした上で、「米国のこうした行動は、ある程度、市場の安定化に役立つだろう」「(しかし)ロシア産原油が大量に供給されなければ、市場の安定化は不可能だ」と主張した。
ロシアは中東紛争の大きな勝者の一つとなる可能性があり、原油価格の高騰はロシアの拡大する財政赤字を補うのに役立つだろう。
プーチン政権寄りのロシア日刊紙イズベスチヤによると、1バレルの原油価格が11ドル(約1750円)上昇するごとに、ロシアに年間280億ドル(約4兆4600億円)の追加収入がもたらされるという。
ロシアの経済特使キリル・ドミトリエフ氏は13日のテレグラムへの投稿で、米国が対ロシア制裁をさらに緩和するのは「ますます避けられなくなる」と主張。
「米国は事実上、明白な事実を認めている。ロシア産原油がなければ、世界のエネルギー市場は安定を維持できない」「エネルギー危機が深刻化する中、EU(欧州連合)の官僚機構の一部は抵抗しているが、ロシア産エネルギーに対する制裁のさらなる緩和はますます避けられなくなるように思われる」と述べた。 【3月14日 AFP】*********************
【市場価格暴騰を阻止したいアメリカ】
アメリカとしては、イラン情勢・ホルムズ海峡問題で市場が混乱する状況で、「市場安定のための調整弁」として制裁を少し緩めたと考えられます。
また、今後海峡封鎖が長期化する場合、世界の海上石油の約20%を占めるホルムズ海峡を通る石油の代替供給としてロシア産を確保しておく、「もし中東が止まったらロシアが穴埋め」という保険の意味もあります。
政治的には、ロシアの中国接近を牽制し、ロシアにとっての“一定の西側市場への窓を残す”という意味合いもあるのかも。
アメリカが一番警戒するのは市場が暴騰する事態でしょう。
アメリカ国内のシェールオイル企業も、ある程度の高値は好都合ですが、暴騰すると世界の“石油離れ”を惹起しますので、そうした事態は望んでいません。
その点では湾岸諸国など、他の産油国も同じかも。
また、石油価格暴騰は、アメリカ国内のガソリンや諸物価高騰を引き起こしますので、そこはトランプ大統領はなんとしても避けたいところ。
とは言うものの、今回のトランプ政権の制裁緩和はやや唐突な感じも。裏にもっと何かあるのかな?