
(米国政府が台湾に売却することを決めたハイマース(HIMARS、高機動ロケット砲システム)。[AP=聯合ニュース]【12月19日 中央日報】)
【トランプ政権にとって「同盟国」は、“民主主義という価値観を共有することで結ばれた関係”ではなく、中国を戦略的に抑制するための「協力者」 自己防衛責任を担い、他方では米国の国防と関連産業を支援しなければならない】
高市首相のいわゆる台湾有事発言後の11月25日頃に行われたとされる高市首相とトランプ大統領の電話会談については、その具体的内容の多くは明らかにされていません。
そうした状況で、トランプ大統領が、高市首相に対して台湾関連の発言を和らげる/抑制するよう助言したと報じられた記事もありました。これは「中国側との摩擦を深めないように」との趣旨とされました。
しかし、日本政府はこの報道内容を否定しています。官房長官は「そのような事実はない」と述べており、「助言」や「発言トーンを抑えるように」という趣旨のやり取りが実際にあったかどうかは政府として認めていません。
日本政府は認めていませんが、2025年国家安全保障戦略(NSS)などに見るトランプ大統領の中国への姿勢を考えると、そうした内容の発言があったとしても不思議ではないと思われます。
****高市首相に警告したトランプ大統領の隠された意図****
米国は先日、2025年国家安全保障戦略(NSS)を発表した。これは、「トランプ2.0」時代の米国がグローバルな権力と経済発展を捉える観点において重大な方向転換がなされたことを象徴している。
米国は第2次世界大戦以降追求してきたグローバル覇権追求の路線を修正し、「米国を再び偉大に」(MAGA)を核に、圧倒的な力を通じて米国が戦争に巻き込まれることを避けようとしている。
その代わり、経済と産業、国民を他国から保護し、同盟国に防衛責任を強く要求することに焦点を向けている。これについて、以下の見解を提示する。
まず、NSSの報告書は、戦略的主軸の面で米国が過去に「誤った道」を歩んできたと批判する。米国はもはや民主的価値を全世界に輸出せず、グローバル・リーダーシップを追求しないことを明確に示している。代わりに、階層化された利益の「同心円」を構築した。
最も内側に置かれる重要なことは米国本土の利益の保護で、第2の円は西半球に対する絶対的勢力圏の確保、第3の円はその他地域だ。これにともない、該当の地域の同盟国には、より多くの安全保障と防衛の責任を負担するよう要求している。
米中関係において、今回のNSSは、中国に言及する際にしばしば使われてきた「最優先の脅威」といった表現を用いていない。代わりに、中国を「最優先の経済的ライバル」「サプライチェーンの脆弱性の源泉」、そして「理想的な状況においては」地域的主導権を確立することを阻止すべき行為者と規定した。
これにはいくつかの隠された意味がある。一つ目は、現在の両国関係は経済が中心であるため、「経済的未来を確保すること」が優先課題だ。二つ目は、両国の経済は競争・協力が共存する関係であるため、「貿易関係の再構成」が核となる。三つ目は、中国が米国の技術規制と関税戦争を突破したことにより、「理想的な状況」においてのみ(米国が)優位を占めることができるとみている。
以上を踏まえると、なぜ報告書が米国の利益を西半球に限定し、ドナルド・トランプ大統領が最近繰り返し「主要2カ国」(G2)に言及しているのかを理解できる。
東アジア地域の安全保障の側面では、米国が中国の軍事的台頭を阻止する意図はないという意思を明らかにしたわけではない。むしろ、米中間の軍事的対立を緩和しつつ、その任務を地域内の同盟国に任せるというものだ。
これを受け、米国は同盟国を明確に「戦略的目的を達成するための手段」とみなし、同盟国に「自国が位置する地域に対して一次的責任を負担」するよう要求している。
最後に両岸関係に関しては、NSSは台湾について中国とロシアの次に多く言及している。台湾が世界の半導体のサプライチェーンの中心にある点を強調し、台湾の戦略的位置に焦点を当てた。
台湾の戦略的地位は二重の性格を持っており、一つは中国の第1列島線(九州‐沖縄‐台湾‐フィリピンを結ぶ仮想の線)の突破を阻止する要衝であり、もう一つは東北アジアと東南アジアを結ぶハブだという点だ。
しかし、前述の論理と同様に、台湾は米国製武器を購入して自己防衛責任を担い、他方では米国の国防と関連産業を支援しなければならない。
NSSをみると、東アジア地域の米国の同盟国は「米国を再び偉大に」のために米国に対する投資拡大を約束しなければならない。安全保障問題では、米国を中心とする戦略的戦列を構築し、中国の台頭に対応しなければならない。米国は軍事的抑止の中心的な提供者であり、その側面にある国家が「最前線の実際の参戦者」となり、国防費を大幅に増額しなければならない。
しかし、もし過度に早急な行動で米国と中国との間の「取引」を阻害する場合は、「警告」を受けることになるだろう。日本の高市早苗首相が「台湾有事」問題をめぐり、中国との外交的摩擦を起こした件がその例だ。このような点で、この地域において米国が真の主役として認識する対象は中国であり、同盟国は価値同盟から中国を戦略的に抑制する協力者へと変わりつつある。【12月22日 ハンギョレ】
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日本や台湾など「同盟国」はバイデン時代のような“民主主義という価値観を共有することで結ばれた関係”ではなく、中国を戦略的に抑制するための「協力者」へと変わってきています。
そのため、“台湾は米国製武器を購入して自己防衛責任を担い、他方では米国の国防と関連産業を支援しなければならない”という立場、ひとことで言えば、自分の身は自分で守れ、アメリカに守ってもらうと思うな、ただし、身を守るうえでアメリカは武器供与などで支援する・・・ということでしょうか。
また、そうした同盟国の“自分の身は自分で守る”行動が、中国を戦略的に抑制することにつながるという考えです。
【台湾への史上最大1.7兆円の武器売却承認も「まずは自助努力で侵攻コストを引き上げよ(中国に台湾侵攻は難しいと思わせる)」というメッセージ性が非常に強い】
トランプ米政権は17日、台湾に対し、高機動ロケット砲システム「ハイマース」や対戦車ミサイル「ジャベリン」など多数の武器の売却を承認し、議会に通知したと発表しました。台湾総統府によると、総額111億ドル(約1兆7千億円)で、アメリカが台湾に販売した単一の武器パッケージとしては最大規模になります。台湾に軍事圧力を強める中国をにらみ、防衛力強化を支援する狙いがあるとされています。
****「やはり台湾は中国ではないのか!」米国が史上最大1.7兆円の武器売却承認、中国は激怒****
米、台湾に史上最大111億ドル規模の武器売却を承認…中国「即時中止」を要求し反発
米国務省が長距離弾道ミサイル「ATACMS」、自爆無人機(ドローン)、「高速機動砲兵ロケットシステム(HIMARS)」などを含む約111億ドル(約1兆7,476億円)の武器を台湾に販売すると17日発表した。米国が台湾に販売した単一の武器パッケージとしては最大規模だ。
ドナルド・トランプ米政権は、今月4日に発表した国家安全保障戦略(NSS)報告書において、アジア地域の安全保障に関連し、中国に対する強い牽制姿勢を明確にした。特に「第一列島線(九州~沖縄~台湾~フィリピン)」の防衛の重要性を強調し、その過程で核心事項の一つとされる台湾の軍事力強化を後押しする意思を明らかにした。
中国は、日本の高市早苗首相の「台湾有事への介入」発言をきっかけに日中間の緊張が高まる中、米国が台湾に史上最大規模の武器を売却しようとしていることに強く反発した。一部では、来年4月に予定されているトランプ大統領と習近平中国国家主席の北京会談においても、台湾への武器売却問題が議題に上る可能性があるとみられている。
● 「台湾の軍事力強化が米国の利益に合致」
(中略)トランプ大統領の再就任後、米国が台湾への武器売却計画を発表したのは今回が2回目である。米国は先月13日にも、台湾に対し3億3,000万ドル(約519億6,097万円)相当の戦闘機部品を売却する契約を承認している。
国務省は同日発表した声明で、「台湾の武器近代化および信頼できる防衛能力を維持しようとする努力を支援するものだ。これは米国の国家的、経済的、安全保障上の利益に合致する」と意義を強調した。また、台湾海峡の政治的安定、軍事的均衡、経済的進展を維持することにも寄与すると期待を示した。
米上院も同日、台湾に対する軍事支援を強化する内容を含む2026年度(2025年10月~2026年9月)国防権限法(NDAA)を可決した。NDAAには、来年台湾に最大10億ドル(約1,574億4,650万円)の軍事支援を承認することや、来年3月1日以前に無人(ドローン)システム開発のための米台共同プログラムを開始するよう求める勧告などが盛り込まれている。
台湾はこれを歓迎した。最近、非公開で米国を訪問していたリン・ジャーロン台湾外交部長は、米国の武器売却発表について「台湾の自主防衛能力と地域の安全保障に対する米国の支持に感謝する」とし「米国がNSSで明らかにした『軍事力強化による台湾海峡衝突の抑止』を実際に重要視していることを行動で示したものだ」と評価した。
米国はNSS報告書で、「第一列島線のいかなる地点においても侵略を抑止できる軍事力を構築する」とし、中国を牽制した。特に、中国が台湾を占領しようとしたり、防衛を不可能にする試みを阻止するため、「米国および同盟国の能力を強化する」と明記した。
● 中国「強く非難」
(後略)【12月22日 江南タイムズ】
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今回の111億ドル規模の武器売却は「米軍が台湾有事に必ず参戦する」という強い軍事コミットメント表明ではなく、むしろ台湾に対して「まずは自助努力で侵攻コストを引き上げよ(中国に台湾侵攻は難しいと思わせる)」というメッセージ性が非常に強いと考えられます。
****武器売却の本質:トランプ政権流の「抑止の外注」*****
今回の大型武器売却は、トランプ政権の一貫した安全保障観――「同盟国・友好国は自らの防衛にもっと責任を持て」という考え方の延長線上にあります。
トランプ政権の特徴は、米軍の直接介入は「最後の最後」 まずは当事国自身が侵攻を割に合わないものにする 米国は兵器・情報・後方支援で関与する というスタンスです。
台湾に対しても「アメリカが最初から血を流すとは限らない。だが、十分に武装するなら中国は踏み切れなくなる」という発想が根底にあります。
「強い関与」のシグナルではあるが、参戦保証ではない
重要なのは、「武器売却=米軍参戦の約束ではない」という点です。
米国は台湾に対し、NATOのような集団防衛条約を結んでいません。伝統的に「戦略的曖昧性」を維持してきました。
今回も、中国に対して「台湾は丸腰ではない。侵攻すれば高くつく」
台湾に対して「まず自分で持ちこたえろ。その能力は与える」
という二重のシグナルです。
武器の中身が示すメッセージ:「攻めるな、持ちこたえろ」
トランプ政権が台湾に供与を認める兵器の特徴は、長距離攻撃兵器よりも防空、対艦、機動性、消耗戦向き装備が中心です。
これは、「台湾が中国本土を攻撃する能力を与えない 侵攻初動を遅らせ、損害を与え、時間を稼ぐ」ことを目的としています。
この「時間稼ぎ」は何のためかと言えば、米国が介入するかどうかを判断する時間 国際世論を形成する時間 中国に「短期決戦は不可能」と悟らせる時間 です。
台湾有事=自動的に米中戦争、とは考えていない
トランプ政権は、台湾有事を「即・米中全面戦争」にはしたくないという点でも一貫しています。
理由は明確で、米中戦争は経済・金融面で米国自身の損失が極大 同盟国の温度差も大きい 国内世論も自動参戦には慎重 ということがあります
そのため、「台湾が自力で踏ん張れない状況を作らないこと」「中国に決断させないこと」が最優先になります。
今回の武器売却は、そのための抑止の積み上げです。【ChatGPT】
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【バイデン政権の中国抑止の中核は「米国は台湾を見捨てない」という政治的メッセージ トランプ政権は「中国にとって割に合わない戦争にする」】
バイデン政権では、大統領自身が「中国が台湾を侵攻すれば米国は防衛する」と繰り返し明言
そのたびにホワイトハウスや国防総省が「政策に変更はない(=戦略的曖昧性は維持)」と火消しを行っていました。
「言葉の上では、かなり踏み込んでいる」と言えます。
トランプ政権では「台湾防衛について明言を避ける」「参戦するかどうかは状況次第」という立場を崩さず、台湾にも中国にも「確信」を与えない曖昧戦略を堅持しています。
バイデン政権の中国抑止の中核は、「民主主義 vs 権威主義」「台湾海峡の平和と安定は国際社会の利益」という価値・同盟を前面に据えて、「米国は台湾を見捨てない」という政治的メッセージをアピールするところにありました。
トランプ政権はコスト計算を前面に出しています。
中国に対して「侵攻すれば経済・軍事で莫大な代償を払う」
台湾に対して「防衛努力をしないなら、米国も無条件では動かない」
バイデン政権の「米国は台湾を見捨てない」という政治的メッセージに対し、トランプ政権の抑止の中核は「割に合わない戦争にする」ということのようです。
トランプ政権は台湾に対し「自分の国を守る覚悟がなければ、米国も賭けない」という圧をかけています。
バイデン政権の対応のように、強気発言が積み重なると、中国は「いずれ米国は必ず介入する」と決め打ちし、早期・奇襲・短期決戦への誘惑が逆に強まる
トランプ政権の対応は中国にとって最も読みづらく、慎重にならざるを得ない
といった評価もあるようです。
【損得勘定がすべてのトランプ大統領には理解できないことも】
ただひとつ個人的意見を言えば、トランプ大統領は全てを損得で判断しがちですが、世の中には「どんなソンになっても、やらざるを得ない」ものが存在することが理解できないのでは・・・とも。
ウクライナの国土防衛への強いこだわりがトランプ大統領には理解できないので「勝てもしないのにいつまでロシアと戦っているのだ」という苛立ちになります。
パレスチナ住民の住み慣れた土地へのこだわりも理解出来ないのでしょう。
同様に、中国にとって台湾を併合して中国統一を果たすという思いは、損得を越えたものです。「台湾侵攻が高くつく」と中国に思わせる戦略は一定に効果はありますが、ギリギリのところで中国側は損得を越えた判断(トランプ大統領には理解できない判断)をする可能性があります。