
(政権発足から3年。イタリアのメローニ首相(写真)は同国政界の舵取り役として地位を固めた。2022年9月、ローマで撮影【10月22日 ロイター】)
【想定外に、現実路線で安定的な政権運営】
日本では保守色の強い初の女性首相、高市首相が誕生しましたが、イタリアでは旧ファシスト政党の流れをくみ、排外主義的な主張も目立つ極右政党を率い、「地中海の鉄の女」とも呼ばれるメローニ首相が誕生して3年が経過しました。
自身もかつてはムッソリーニを称賛する発言もしたことがあるといった極右体質の首相が欧州主要国で誕生したということで当時注目もされましたが、この3年間を一言で評価するなら、想定されたよりは現実主義で、EUとも協調し、安定的な政権運営を続けていると言えます。
****イタリアではメローニ政権が安定の3年…初の女性首相、「極右」と目されたが現実路線に転換****
イタリア初の女性首相としてジョルジャ・メローニ氏(48)が就任してから22日で3年を迎える。当初は「極右」とも目されたが、就任後はバランス重視の現実路線に転じ、安定した連立政権を基盤に国際的な存在感を高めている。先進7か国(G7)の保守派の女性首相として、高市首相の参考にもなりそうだ。
「光栄にも私が率いる政府は、共和国史上3番目に長い政権になった」。メローニ氏は20日、ベルルスコーニ氏の第2次政権(1412日)、第4次政権(1287日)に次ぐ1094日に達したことをSNSで報告し、「責任をもって働き続ける」と意欲を示した。
多党制のイタリアでは、不安定な連立政権が常態化し、近年は1~2年ほどの短命政権が続いてきた。
メローニ政権も、自身が率いる右派「イタリアの同胞」など3党による連立だが、世論調査では、政府支持率は7月時点で41%。発足時から下落傾向にあるものの、他の欧州各国政府と比べて高水準を維持する。メローニ氏個人への支持率はさらに高い43%で、堅調な人気が連立内の対立を抑制している。
「イタリアの同胞」は旧ファシスト政党の流れをくみ、排外主義的な主張が目立ったことから、政権発足時は欧州連合(EU)やウクライナ支援の足並みの乱れにつながる懸念があった。
だが、就任後は、欧米との協調重視の現実路線に転じた。ウクライナへの支援継続や対露制裁を一貫して主張し、G7で唯一参画していた中国の巨大経済圏構想「一帯一路」からの離脱にも踏み切った。重要課題の不法移民対策も、EUを動かして規制強化につなげた。【10月22日 読売】
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【「安定性」は“リスク回避”“痛みを伴う改革の先送り”と表裏】
ただ、メローニ政権の「安定性」は、波風を立てるような、あるいは、国民の痛みを伴うような改革を敢えて行わず、現状維持を重視した結果でもあり、イタリアが抱える社会的・経済的課題の解決に何ら寄与していない・・・との評価もできます。
****発足から3年たったメローニ政権の「通知表」...イタリア政界のかじ取り役の地位を維持できる?****
政権発足から3年。イタリアのメローニ首相は同国政界の舵取り役として地位を固めた。多くの欧州指導者を動揺させた経済面の逆風や国際的な不確実性に抗っての成果だ。
不安定が常だったイタリアで、メローニ氏の着実な指導力は市場から称賛されている。しかしアナリストは、同氏が地位を確固たるものにしたのは、この国が切実に必要とする痛みを伴う改革を避け、現状維持を良しとした結果だと言う。
最近の世論調査によると、メローニ氏が率いる政党「イタリアの同胞(FDI)」および、同党を含む保守連立政権は、2022年の選挙で勝利した時点よりも支持率が上がっている。現政権としては珍しい。
メローニ氏自身の支持率は42%前後で推移しており、ドイツのメルツ首相やフランスのマクロン大統領など、多くの欧州政治家らを大きく上回っている。
アナリストはこの持続的な人気について、彼女の能力と統制力に対する幅広い認識を反映していると説明。こうした認識は、国際舞台での強い存在感と、公共支出への慎重姿勢によって投資家を安心させたことに裏打ちされたものだと話している。
ロンドンの政治リスクコンサルティング会社、テネオのウォルファンゴ・ピッコリ氏は「予算制約には対処したが、変革的な構造改革はない。議会多数と弱い野党にもかかわらず、野心を欠く」と述べ、改革を避ける姿勢に言及した。
リスク回避的な統治
外から見ると、メローニ氏のイタリアは激動の欧州の中にあって、安定して栄える島のように映る。
先月、イタリアの10年物国債利回りは初めてフランス国債と同水準まで低下した。22年に国内総生産(GDP)比8.1%だった財政赤字が、今年は3.0%に急減するとの見通しを反映した動きだ。
格付け会社フィッチはイタリアの財政健全性を評価し、同国の信用格付けを引き上げた。対照的に、フランスは25年に財政赤字の対GDP比率が5.4%になると予想されており、格付けを引き下げられた。
もっとも、メローニ氏のリスク回避的な統治は財政赤字を抑える効果こそあれ、長年の官僚主義、高いエネルギーコスト、人口減少、持続的な頭脳流出、高税率、低賃金に悩まされてきた硬直化した経済を解放することにはほとんど寄与していない。
代わりにメローニ氏が行ったのは、国家のアイデンティティーと伝統的な家族の価値観を擁護することで、右派の支持基盤を固めることだった。また法と秩序に重点を置き、司法制度の刷新と警察権限の強化を図ろうとしている。
こうした政策は経済にほとんど貢献しておらず、イタリア国家統計局(ISTAT)によると、同国の鉱工業生産は過去3年間で約7.5%減少した。
国際通貨基金(IMF)の予測では、イタリアのGDP成長率は25年にわずか0.5%、26年には0.8%にとどまる見込みだ。これはユーロ圏全体の1.2%、1.1%と比べて低い。
経済を支えるEUの基金
エコノミストによると、コロナ禍に対応した欧州連合(EU)の復興基金による支援がなければ、イタリアは景気後退に陥っていた可能性がある。
1940億ユーロ(約33兆9360億円)の補助金と融資で構成される基金は、メローニ政権の命綱だ。
元産業担当閣僚で中道政党アツィオーネ党党首のカルロ・カレンダ氏は「わが国の成長はNRRP(復興基金)あってこそだ。これ無しでは景気後退に陥っていただろう」と指摘。「問題はNRRP資金の使途だ。スペインが企業支援や投資誘致に充てたのに対し、わが国は自治体に無差別に配分し、大半が全く無意味な事業に向かった」と話した。
この違いを裏付けるように、IMFはスペインの成長率を今年2.9%、来年2.0%と、イタリアより大幅に高く予測している。政府はEU資金の浪費を否定し、交通網の改善など戦略的プロジェクトに多額が投入され、その効果は数年後に実感されるだろうと主張している。
変化に抵抗する有権者層
メローニ氏は就任以来、欧州問題や対米外交における重要なプレーヤーとしての地位を確立し、フォンデアライエン欧州委員長と協力して北アフリカからの移民流入を抑制し、トランプ米大統領およびバイデン前米大統領と緊密な関係を築いてきた。
世論調査専門家ロレンツォ・プレリアスコ氏は、メローニ氏の着実な外交と、国内の政治的ドラマを嫌う姿勢が、安定した支持率の維持につながっていると述べた。
対抗馬の不在も大きい。中道左派の野党陣営が22年の選挙敗北後も深く分裂したままで、今のところメローニ氏に挑戦できる指導者はいない。気性が激しく、飾り気のない言葉で話すメローニ氏は、政治エリートに警戒心を持つ有権者の共感を呼んでいる。
「彼女はイタリア人の過半数から愛されているわけではないが、現時点で明確に彼女に代わり得る人物は存在しない」とプレリアスコ氏は述べ、「彼女はまた、何かを改革しようとすれば必然的に誰かの不満を招くことを理解している。おそらくそれが理由で、特に国内レベルではあまり多くのことを行っていないのだろう」と続けた。
イタリアは人口の4分の1が65歳以上と、世界で最も高齢化が進んだ国の1つであり、変化に抵抗するのは無理もないかもしれない。
しかし、メローニ氏が最初の3年間を比較的容易に乗り切れたからといって、27年に予定される次期総選挙までの残り2年間が順風満帆だとは限らない。EUからの資金は26年に枯渇する見通しで、米国の関税は輸出主導型経済のイタリアにさらなる重圧となるだろう。
プレリアスコ氏は「私の基本シナリオでは、メローニ氏は任期をまっとうし、次の選挙の勝利候補となるだろう。だがここはイタリアだ。ちょっとしたことで風向きは変わる」と語った。【10月23日 Newsweek】
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【イスラム衣装規制・・・・“国家のアイデンティティーと伝統的な家族の価値観を擁護することで、右派の支持基盤を固める”施策 世界的流れの一環】
メローニ首相の“国家のアイデンティティーと伝統的な家族の価値観を擁護することで、右派の支持基盤を固める”施策のひとつが、公共空間におけるフルブルカやニカブといった顔を完全に覆うイスラム衣装の着用を禁止し、イスラム教団体への資金の流れに透明性を求めるという施策です。
****イタリア、イスラム衣装規制へ****
2024年、イタリア議会ではメローニ政権与党「イタリアの同胞」所属議員らによって提出された法案が、国内外で大きな注目を集めることとなった。この法案は、公共空間におけるフルブルカやニカブといった顔を完全に覆うイスラム衣装の着用を禁止し、イスラム教団体への資金の流れに透明性を求めるという、極めて象徴的な内容を含んでいる。国際メディアはこの動きを大きく報じ、イタリア国内でも法案の詳細とその背後にある政治的意図が詳しく伝えられた。
この法案が浮き彫りにしたのは、移民受け入れの最前線に立つイタリアが直面する、文化的アイデンティティと安全保障の狭間での苦悩である。
表面的には宗教的シンボルの規制に見えるこの動きは、実際には欧州全体が抱える移民統合の課題、世俗主義と宗教的自由の衝突、そして国家アイデンティティの再定義という、より深層的な問題を内包している。
| 文化的アイデンティティと安全保障の狭間で
法案提出の背景には、ここ数年のイタリア社会における変化がある。地中海を渡る移民の大量流入により、イタリアの都市部では文化的多様性が急速に増大した。特に北部の工業都市や南部の港湾都市では、イスラム教徒コミュニティの存在感が高まり、モスクの建設、ハラール食品店の増加、イスラム式の服装をした人々の姿が日常的に見られるようになった。
こうした変化に対し、イタリア社会は複雑な反応を示してきた。一方では、歴史的に多様な文化を受け入れてきた地中海文化圏の伝統が生きており、移民を受け入れる寛容さも存在する。しかし他方で、急速な変化に対する戸惑いや不安、さらには経済的な不満が移民への反発として表面化することも少なくない。
メローニ政権はこうした社会的不安を巧みにすくい上げている。彼女の政治的メッセージは明確だ。イタリアには固有の文化的アイデンティティがあり、それは守られるべきである。移民を受け入れることと、イタリアの伝統的価値観を維持することは両立可能だが、そのためには明確なルールが必要である。今回の法案は、まさにこの政治的メッセージを具現化したものと言える。
安全保障の観点も無視できない。2015年のパリ同時多発テロ以降、欧州各国ではイスラム過激主義への警戒感が高まった。イタリアでも、過激主義思想の浸透を防ぐため、モスクや宗教団体への監視が強化されてきた。今回の法案における資金監視強化は、こうした安全保障上の懸念に応えるものとして位置づけられている。
しかし、文化的統合と安全保障という二つの目的が、果たして顔を覆う衣装の禁止によって達成されるのかは疑問が残る。批判者たちは、この法案が実際には統合を促進するのではなく、ムスリムコミュニティをさらに孤立させ、社会的分断を深める結果を招くと指摘している。(中略)
メローニ政権の移民政策と愛国主義
2022年に首相に就任したジョルジャ・メローニは、戦後イタリアで初めて極右政党出身の首相となった。彼女が率いる「イタリアの同胞」党は、かつてのイタリア社会運動、すなわちムッソリーニのファシズムを継承した政党の流れを汲む組織である。
メローニ自身は「ポスト・ファシズム」というレッテルを否定し、自らを「保守愛国主義者」と位置づけているが、その政治的ルーツは明らかである。
メローニ政権の移民政策は「国家主権の回復」と「イタリアのアイデンティティ防衛」を二本柱としている。地中海を渡ってくる移民の流入を抑制し、既に国内に居住する移民には「イタリア的価値観」への同化を求める。この姿勢は、今回のイスラム衣装規制法案にも色濃く反映されている。
政権発足以来、メローニは地中海での移民救助活動を行うNGO船への規制を強化し、リビア沿岸警備隊への支援を拡大してきた。さらに、北アフリカ諸国との協力関係を深め、移民の「源流対策」に力を入れている。こうした一連の政策は、イタリア国内の世論、とりわけ移民受け入れに疲弊した南部地域や中小都市の住民から一定の支持を得ている。
国際社会からの評価は厳しい。国連難民高等弁務官事務所や欧州人権裁判所からは、メローニ政権の移民政策が国際人権法に違反する可能性が指摘されている。リビアへの送還政策については、送還された移民が拷問や奴隷的労働にさらされる実態が明らかになっており、「ノン・ルフールマン原則」違反との批判が絶えない。
今回のイスラム衣装規制法案も、こうした文脈の延長線上にある。メローニ政権にとって、移民問題は単なる人道問題ではなく、「イタリアのアイデンティティをどう守るか」という文化的・政治的課題なのである。法案提出者らは「イスラム主義的分離主義」を明確に敵とみなし、イタリア社会への統合を拒む者に対しては厳格な姿勢で臨む意志を示している。
この愛国主義的なレトリックは、イタリア国内で一定の支持を集めている。長年にわたる経済停滞、高い失業率、そして大量の移民流入という複合的な問題に直面する中で、多くのイタリア人は「強い国家」を求めるようになった。メローニはこの感情に訴えかけ、「イタリアを再び偉大にする」というメッセージを発信し続けている。(中略)
社会の分断か統合か:法案の行方
この法案が成立した場合、イタリア社会にどのような影響を及ぼすのか。推進派は「統合の促進」を主張するが、実態はより複雑である。
まず、イタリアにおけるブルカやニカブの着用者は極めて少数であることが指摘されている。イタリア国内のムスリム人口は約250万人とされるが、フルブルカやニカブを日常的に着用する女性は推定で数千人程度に過ぎない。つまり、この法案が直接的に影響を与える対象は限定的であり、「象徴的な政治」としての側面が強い。
しかし、象徴的であるがゆえに、その影響は広範囲に及ぶ可能性がある。第一に、ムスリムコミュニティ全体が「標的にされている」と感じることで、社会的分断が深まる恐れがある。既にイタリアでは、モスク建設を巡る地域住民との対立や、ムスリム児童に対する学校でのいじめなどが報告されており、この法案がさらなる対立を煽る可能性は否定できない。
第二に、ブルカやニカブを着用する女性たちが公共空間から排除されることで、彼女たちの社会参加がさらに制限される逆説的な結果を招きかねない。推進派は「女性の解放」を掲げるが、実際には教育機会や医療アクセス、雇用機会が奪われる可能性がある。イスラム女性団体の代表者は「私たちは自らの意志でこの服装を選んでいる。法律で禁じられれば、家に閉じこもるしかない」と語っている。
第三に、資金監視の強化は、イスラム教団体の活動を萎縮させる効果を持つ。透明性の確保自体は正当な要求だが、過度な監視は宗教活動の自由を制約する。国外からの資金を「過激主義との結びつき」の証拠として一律に疑う姿勢は、合法的な宗教活動まで制限しかねない。
国際的な視点から見れば、イタリアのこの動きは欧州における右傾化の一環として捉えられている。移民問題に対する強硬姿勢は、フランス、オランダ、デンマーク、スウェーデンなど、欧州各国で政治的支持を集めている。その背景には、経済的不安、文化的アイデンティティの危機感、そしてテロの脅威への恐怖がある。
しかし、強硬策が必ずしも統合を促進するわけではないことも、これらの国々の経験が示している。フランスでは、ブルカ禁止法施行後もムスリムコミュニティの社会的孤立は解消されず、むしろ若年層の過激化が進んだとの指摘もある。規制による強制的な同化は、かえって反発を生み、社会の分断を深める危険性を孕んでいる。
イタリアが直面しているのは、単なる服装規制の是非ではなく、多文化社会をどう構築するかという根本的な問いである。移民を受け入れながら、社会の結束をどう保つのか。宗教的自由を尊重しながら、世俗的な公共空間をどう維持するのか。個人の選択を認めながら、女性の権利をどう守るのか。これらの問いに対する答えは容易ではなく、イタリア社会はその答えを模索し続けている。
法案の今後の動向は不透明である。議会での審議過程で修正が加えられる可能性もあり、憲法裁判所での合憲性審査を経る必要もある。国際的な圧力や、EU法との整合性も問われるだろう。
しかし、この法案が提起した問題は、法案の成否にかかわらず、イタリア社会に長く影を落とし続けることになる。それは、多様性と統合、自由と秩序、伝統と革新という、現代社会が直面する普遍的なジレンマなのである。【10月21日 ヴィズマーラ恵子氏 Newsweek】
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“長年にわたる経済停滞、高い失業率、そして大量の移民流入という複合的な問題に直面する中で、多くのイタリア人は「強い国家」を求めるようになった。メローニはこの感情に訴えかけ、「イタリアを再び偉大にする」というメッセージを発信し続けている。”・・・・フランス、オランダ、デンマーク、スウェーデンなど、欧州各国における極右ポピュリズムの台頭、アメリカのトランプ政権支持、そして日本では18〜39歳の80%が高市首相を支持という状況(読売調査)に共通する流れでしょう。
国際面では、トランプ大統領とメローニ首相は友好関係を維持していますが、その一方で、“米国はイタリア産パスタに対し、最大100%を超える高率関税を課す動きを見せており、欧州全体の食品産業に緊張が走っている。”【10月22日 江南タイムズ】という事態も。
“昨年、イタリアは米国に約7億ユーロ(約1,233億1,664万円)相当のパスタを輸出している。関税が実施されれば、イタリアの主要輸出品の一つであるパスタ産業は、輸出が事実上停止する危機に直面することになる。”【同上】
単に“イタリア産パスタ”に限定されないEUとアメリカの多岐にわたる貿易摩擦の問題のひとつですが、トランプ大統領とメローニ首相の同質的な友好関係からすれば、今後の収束に向けて何らかの対応がとられるのでしょう。