lonelylika’s diary

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ

イラン  アメリカによる制裁の影響は? 火が付く危険が増す対イスラエル・湾岸アラブ


(【11月13日 朝日】)

【「イランにとって厳しい局面にはなるが、経済はさまざまな理由から耐え抜いていくだろう」】
アメリカ・トランプ政権はイラン核合意から離脱し、イランへの制裁を科すことで、アメリカにとってより有利な再交渉にイランを引っ張り出すことを目論んでいますが、そうしたシナリオが可能なのか?

制裁を受けるイラン経済の状況はよくわかりませんが、「苦しいのは間違いないが、崩壊するほどではない」というのが下記記事の見方です。

****米制裁下のイラン、経済崩壊を回避できるか****
イランは米国の経済制裁を受け、景気後退に見舞われるだろうが、経済が全面的に崩壊する事態は避けられる見通しで、原油価格上昇や米国と他の関係国にすきま風が吹いていることがその理由だ──。各国政府当局者や専門家はこうした見方をしている。
 
ある欧州の外交官は「イランを取り巻く状況は2016年以前よりも良い。なぜなら原油価格が高く、米国は国際的に孤立しているからだ」と話した。

イランは2016年初め、核開発制限を受け入れる国際的な合意の枠組みの下でいったん制裁を解除されたが、今年5月にトランプ米大統領が核合意離脱と制裁復活を表明。特に影響が大きい原油の禁輸と金融制裁が(11月)5日に発動された。

トランプ氏の狙いは、イランに核開発でより厳格な制限を設け、弾道ミサイル計画を撤回させ、イエメンやシリアなどの紛争地域における同じイスラムシーア派武装集団への支援をとりやめさせることだ。

しかし以前の制裁を有効に実施し、イランに核開発制限を認めさせた国際的な結束は、トランプ政権発足とともに消えてしまった。以後、米国と同盟諸国は、貿易から集団安全保障に至るあらゆる問題で対立している。

実際、米国以外で核合意に署名したドイツ、フランス、英国、欧州連合(EU)、ロシア、中国はそろってトランプ政権の核合意離脱を批判。EUは、米国の制裁下でもイランとの貿易取引が可能になるような仕組みを導入する準備を進めているところだ。

別の外交官は「イランにとって厳しい局面にはなるが、経済はさまざまな理由から耐え抜いていくだろう」と述べ、当事国の1つであるロシアも欧米の制裁を受けていることや、イランの宿敵のサウジアラビアが国内の金融・政治問題に掛かりきりになっている状況、米中貿易摩擦などを挙げた。

石油メジャーから商社、海運会社まで外国企業が米国の目を恐れてイランとの取引から手を引きつつあるのは間違いない。

それでも依然として相当な量の原油が輸出されつつあるので、イランが来年恐らく景気後退に陥るとしても経済は崩壊しないはずだ、とフィッチのソリューションズ・アナリスト、Andrine Skjelland氏は予想する。

同氏はロイターに、イラン政府はなおかなりの外貨収入を確保し、生活必需品の輸入に補助金を供与してコストを引き下げ、ある程度国内の物価上昇を抑え続けるとの見通しを示した。

イラン当局は、買い手を引き付けるために原油の値引き販売もやむを得ないかもしれないとの考えを示唆している。同国の貿易に関係しているある当局者は「石油収入は減っても国家運営にはまだ十分な額になる。市場価格より1ドル低くすれば、いくらでも買い手はつく」と主張した。(中略)

国際通貨基金IMF)も、イランの成長率は石油収入の目減りで今年がマイナス1.5%、来年は同3.6%になると予想した。

とはいえイラン側は意気軒昂で、トランプ氏は核合意を否定するという点で孤立化し、原油は値上がりを続け、米国が石油禁輸適用を8カ国・地域に対して除外したことなどを自分たちのプラス材料だと強調する。

あるイラン政府高官は「たとえイランの原油販売量が日量80万バレルに減ったとしても、経済のかじ取りはできる。だが実際にはもっと多く出荷しており、わが国の経済は崩壊からは程遠い。国家予算が想定している原油価格は1バレル=57ドルで、足元は75ドルを超えている」と述べた。

イラン最高指導者ハメネイ師の側近は「米国の禁輸除外がなくても、われわれは原油を売り、制裁をすり抜けていく。味方になってくれる国は多く、米国は何もできない」と言い放つ。【11月10日 ロイター】
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原油価格の方は、トランプ大統領の安値誘導発言もあって(基本的には供給過多による調整でしょうが)、10月初めをピークとして急激に低下し、現在は1バレル=50ドル強のラインまで落ち込んでいます。

その点では、イランにとって厳しさを増していますが、国際社会からの支援がないイラン・イラク戦争を耐え忍んだ国ですから、そう簡単には白旗を上げることはないでしょう。

【イランが核活動を再開する時、米国はどうやって始末をつける積りなのか?】
あり得る変化としては、経済の混乱から現在の穏健派ロウハニ政権が崩壊して、より反米的な保守強硬派に変わり、イランが核開発をおおっぴらに再開するという変化ですが、それはアメリカにとっては事態をより困難にする変化でもあります。

そうなると事態を止めるには戦争しかなくなります。

****米国の制裁ではイランは変わらない****
11月5日トランプ政権は、対イラン制裁の復活第2弾として、エネルギー、造船、海運および金融の分野の制裁を発動し、核合意に伴い解除されていた制裁が全面的に復活した。

トランプは、「自分ならオバマが交渉した破滅的な核合意よりも良い取引きが出来る」として、制裁によりイランを交渉のテーブルに引っ張り出すことにしたのである。トランプのお手並み拝見となる。

なお、米国は、中国、インド、韓国、トルコ、イタリア、日本、ギリシャ、台湾の8の国・地域についてイラン石油の輸入に係わる制裁の適用を180日間免除するとした。ポンペオ国務長官は、免除の決定は原油価格の高騰を防ぐためであることを示唆している。
 
トランプが本当に交渉を望んでいるのか確かではないが、イランが交渉に出て来るようには思えない。トランプに脅かされ制裁の圧力屈して交渉に応じる一方でなお政権を維持する選択肢がロウハ二はあろうはずがない。

そうであれば、トランプ政権の狙いはレジーム・チェンジだということになる。イランに世俗的な普通の民主的政権が出来ることは歓迎であるが、そういう可能性があるという兆候は何処にもない。
 
イランはこれまでのところ抑制的に対応している。欧州が核合意にコミットしている限り、イランもこれを遵守するとの態度である。不満のはけ口をミサイルの発射やペルシャ湾での挑発的行動に求めることもしていない。
 
イランの抑制的態度を支えているのは欧州の努力である。その努力の一つの現れが欧州企業のイランとの正当な取引きを保護するためのEUの対抗立法である。(中略)

しかし、その効果は疑わしい。トタル社やジーメンス社のイランのビジネスからの撤退を防げていない。米国のビジネスからの排除と米国の金融システムへのアクセスの遮断を内容とする米国の第二次制裁に対しては無力であろうと思われる。
 
EUによるもう一つの努力は「特別目的事業体(special purpose vehicle)」である。
11月2日、モゲリーニEU外交安保上級代表と英独仏の外相・財務相は共同声明で、米国の第2弾の制裁復活を遺憾としたが、その中でイランとの金融のチャネルの維持とイランの石油・ガスの輸出の継続にコミットしており、そのためにロシア、中国とも協力して作業を進めると強い調子で述べている。

具体的に検討されているのが「特別目的事業体」という仕組みである。これは、一方でイランからの輸入に伴い支払いを要する企業、他方でイランへの輸出に伴い支払いを受ける企業、両者の間で精算を可能とする仕組みを設ける、即ち、ドルを介することなく、EUとイランとの間で一種のバーター取引を可能とする仕組みを設けるというもののようである。

イランのザリフ外相はこの仕組みに期待するような発言をしているが、その実現可能性、実現したとしてどの程度有効に機能するかは目下不明である。
 
今後の問題は、イランが何時まで米国の制裁に耐え核合意を遵守することが出来るかにある。欧州にすら経済的利益を期待出来ないとなれば、イランが核合意を維持する意味はない。

中国は米国に義理立てする必要はないであろうからある程度協力を当てに出来るであろう。ロシアはイランの石油を買って転売する仕組みをイランとの間に有しており、引き続き支援すると言っている。

それでもイランの石油輸出は最近のピークの280万バレル/日の3分の1程度に落ちるという見通しもあるからイランは苦しい。

追い詰められる。そういう状況で沈黙していることに政権は耐えられないとなれば、イランは核合意を離脱し核活動を再開するかも知れない。

核合意で強化された査察体制を妨害し、核活動の実態は見えにくくなる。そうなった時、米国はどうやって始末をつける積りでいるのかは誰にも判らない。【12月3日 WEDG】
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“トランプ政権の狙いはレジーム・チェンジだということになる”・・・・イランの体制はそう簡単には崩れないでしょう。

あるとしたら、先述のように穏健派から露骨な反米保守強硬派への変化であり、それはイランの核合意離脱、核開発再開を意味します。

なんのためにイランをそこまで追い詰めたのか・・・という話にもなります。(戦争をしたいというのであればわかりますが。イランを叩きたくてウズウズしているイスラエルはともかく、計算高いトランプ大統領はカネのかかる戦争は望んでいないでしょう。もっとも、イスラエルがイランを攻撃するのは支援するでしょうが)

【表の制裁とは別の動きも】
中国とは90日という期限を設定して経済戦争を仕掛けていますし、ロシアとも60日の期限を設定して中距離核戦力(INF)全廃条約に関する駆け引きを始めています。

そうした中国・ロシアとアメリカの関係が好転しなければ、中国・ロシアはイラン支援をやめないでしょう。

中国・イラン・アメリカの関係をめぐる興味深い記事がありました。

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イランが今夏、突如として米国からの大豆輸入をスタートさせた。

それまで大豆を買ったことがなかったイランが、八月に一億四千万ドル分の大豆を購入。九月以降にも続けて輸入しているが、総額二億ドル分を同国内で消費するかは不透明。

そのため、米中貿易戦争で米国産大豆に高関税をかけた中国に横流ししているのではないかという観測が出ている。【「選択」12月号】
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ひょっとしたら、支持基盤の大豆農家支援のためトランプ政権も黙認の取引だったりして。
そもそも、制裁を受けているイランがアメリカから大豆を大量輸入できるというのも初めて知りました。

制裁が声高に叫ばれる表の世界とは別物の、裏の現実があるということでしょうか。

【イラン・アメリカ 互いにけん制】
“不満のはけ口をミサイルの発射やペルシャ湾での挑発的行動に求めることもしていない”とのことですが、全く鳴りを潜めている訳でもありません。

****「イランがミサイル発射実験を実施」米国務長官が非難声明****
アメリカのポンペイ国務長官は、イランが、国連安全保障理事会の決議に違反して、中距離弾道ミサイルの発射実験を行った、と非難する声明を出しました。
ポンペイオ長官は1日、声明を出し、イランが中距離弾道ミサイルの発射実験を行ったと指摘しました。

実験したのは、複数の弾頭を同時に搭載できる「多弾頭型」のミサイルで、中東の全域とヨーロッパの一部が射程に入るとしています。実験の場所や日時は明らかにしていません。(中略)

一方、イランはこれまでのところ、実験を行ったのか明らかにしていません。(後略)【12月2日 NHK】
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一方、米軍の動きは以下のようにも。

****米国がペルシャ湾に空母展開、イランをけん制****
米軍の空母ジョン・C・ステニスが数日内にも中東地域に展開されることが明らかになった。同地域に米空母が配備されるのは8カ月ぶりで、この空白期間は過去20年で最長。国防総省関係者が明らかにした。イラン政府をけん制することが主な目的になる。
 
トランプ政権はイランの弾道ミサイル発射テストだけでなく、同国が支援するシリア、イラクレバノン、そしてイエメン内の組織に対しても新たな制裁を発動し、米イラン関係は緊迫化している。
 
空母はそのほかにも、イラクとシリアで続く過激派組織イスラム国(IS)との戦いや、アフガニスタンでの対タリバン戦も支援する。(中略)
 
今年に入り空母打撃群が中東地域に不在だったのは、中国・ロシアへと軍事力を再配備する戦略に基づくものだったと国防総省当局者らは述べている。一方でその流れは、イランが安全保障上最大の問題だとするホワイトハウスの考えに反するものでもあった。【12月4日 WSJ】
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中東において過去20年で最長の空母不在の空白期間があったということは、少なくとも軍事的にはイランを含む中東情勢には、トランプ大統領が叫ぶほどには(少なくとも国防総省・米軍は)関心を払っていなかった・・・ということにもなります。

イランは、アメリカによる原油の禁輸制裁に対し威嚇的な発言をしていますが、これは毎度の話で、特に目新しいものでもありません。

****原油輸出、イランが不可能なら他の湾岸諸国も不可能に=大統領****
イランのロウハニ大統領は4日、イランが原油を輸出できなければ、他の湾岸諸国からの原油輸出も不可能になるとの考えを示した。

ロウハニ氏はテレビ演説で「イランはイラン産原油を売却しており、今後もそれを続ける。米国はイランの原油輸出を止めることはできないということを認識すべきだ」と語った。

「ある時点で米国がイラン産原油の輸出を阻止しようとすれば、湾岸諸国のどの国からも原油輸出ができなくなる」と強調した。ロウハニ氏は7月にも同様の発言をしている。

また、イスラム革命防衛隊の司令官は7月に、米国がイランの原油輸出を阻止すれば、イランはホルムズ海峡を封鎖すると述べている。【12月5日 ロイター】
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キナ臭い「イラン対イスラエル・湾岸アラブ諸国
イランをめぐる情勢に火が付くとしたら、イラン・アメリカ関係よりは、イランを敵視するイスラエルとの関係の方でしょう。

イスラエルは11月29日、シリアの首都ダマスカス近郊と同国南部の複数の地域を空爆しています。
攻撃対象地域には「レバノンの(シーア派原理主義組織)ヒズボラとイラン部隊の武器庫」があるともいわれています。

イスラエルはこれまで、イランに属する標的への攻撃と称し、隣国シリアに数百回の空爆を実施してきた”【11月30日 AFP】

一方、イランはシリア南部における勢力を確実なものにしつつあります。

イスラエル系jerusalem posy netによれば、“イランの影響力の拡大と浸透で、革命防衛隊やヒズボッラ―が至る所で、支配しており、シリア政府との境界があいまいになり、どこまでがアサド政権でどこからがイランの実質的支配化が判らなくなった”【12月2日 「中東の窓」】とも。

イスラエルが強気なのは、アラブ諸国における変化があります。従来は「イスラエル対アラブ」という対立軸があり、少なくとも建前上はイスラエルによって蹂躙されたパレスチナを支援する「アラブの大義」がありました。

しかし、現在ではアラブにおけるイスラエル容認が進み、「イスラエル対イラン」の対立軸に、イランと対立するアラブ諸国イスラエル側で組する構図に変わっています。

****イランをめぐる大義なき戦争へ****
イスラエル対イラン」と「アラブ対イラン」の対立軸が一体化する日

(中略)さらにイランと対抗する上で、アラブ諸国も建前上対立してきたイスラエルにくみする姿勢を見せている。バーレーンは9月に「イランが中東を不安定化させている」と非難し、アラブ諸国は対イスラエル貿易ボイコットなどをやめるべきだと主張。シリア空爆イスラエルの正当な権利と表明した。
 
これまでもサウジアラビアアラブ首長国連邦(UAE)といった湾岸諸国が、対イランでイスラエルと協力関係にあることは公然の秘密であった。ただこうした見解が政府関係者から公式に表明されることは、大きな変化だ。

超国家的な「アラブの大義」が語られなくなり、極めて国家的な脅威認識や安全保障観が前面に出てきたことは、先に述べた国民意識の変化と軌を一にするものだろう。

こうした反イラン陣営の形成は、かってのアラブ-イスラエル紛争と同様のモーメントを生み出す恐れがある。
すなわち、「イスラエル対イラン」という対立軸が、サウジアラビアをはじめとする「湾岸アラブ諸国対イラン」という対立軸と一体化すれば、局地紛争が別の紛争と連動する可能性が高まる。

アメリカも中東紛争の管理を忌避するようになっている今、1つの紛争の勃発が中東全体を覆う大義なき戦争を引き起こすかもしれない。【11月13日号 Newsweek日本語版】
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イランが核合意を離脱して核開発を再開させれば、そのときイスラエルは・・・・。