
(「スー・チー」カレンダーを手にした支持者 こうした経済的・社会的に厳しい状況で生活する人々のために現実問題として何ができるかが、政治家スー・チー氏の課題です。 “flickr”より By Jerry Lee https://www.flickr.com/photos/jezza_on_the_block/16140378026/in/photolist-qAgE4L-pvSmLe-pZ2Lpb-pkLk98-qfeRn1-q173JF-iTXC5P-qyexLw-pLzMV7-qn8usX-qDxGEM-qmZ3zS-qBgqKq-qn8pVF-qDo3CD-qn8nRk-pkdcoo-pZmb6f-qeBRJA-qe8YKs-pZDT7E-qasr7J-qe9NrG-q4mDGv-qkLvCi-qiuxpj-qiuy45-q4dCyY-pp1PRx-poMfjQ-qaDft9
昨年正月にヤンゴンを観光した際に、私も「スー・チー」カレンダーをお土産に・・・と思ってNLD党本部まで足を運んだのですが、オフィスは閉まっており買えませんでした。)
【憲法の核心部分を改正せずに「スー・チー政権」誕生を阻止】
ミャンマーでは今年10月下旬か11月初旬に上下両院選が行われる予定で、その後の議員投票で大統領が決まります。
野党指導者のスー・チー氏は次期大統領を狙っていますが、周知のように旧軍政が2008年に制定した憲法は「本人、両親、配偶者、子供とその配偶者のいずれかが外国国民であれば大統領にはなれない」と規定しており、夫(故人)が英国人で2人の息子も英国籍のスー・チー氏には大統領資格がありません。
スー・チー氏の大統領就任のためには憲法改正が必要になりますが、議員の4分の1は国軍総司令官が指名した国軍議員が占めている現行制度では国軍の協力なしには憲法改正はできません。
スー・チー氏と彼女が率いる野党「国民民主連盟(NLD)」は、大統領資格要件や憲法改正要件に関する改正を強く求めていますが、政権側が消極的なことはこれまでも取り上げてきました。
2014年11月8日ブログ「ミャンマー 主要政党トップや国軍首脳らを集める異例の円卓会議 憲法改正問題に道は開けず」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141108
11月にミャンマーを訪れたオバマ米大統領もミャンマーの民主化について「決して完了してはおらず、後戻りもできない」と警告、改憲を含む民主化プロセスの加速を求めています。
****<ミャンマー>米大統領、スーチー政権阻止の憲法条項を批判****
オバマ米大統領は14日、ミャンマーの最大都市ヤンゴンで、野党「国民民主連盟(NLD)」のアウンサンスーチー議長と会談した。
2人は来年後半予定の総選挙・大統領選に向け「スーチー大統領」誕生を阻む憲法の大統領資格条項を「公平でない」と批判した。
国会は13日から憲法改正問題の集中審議に入ったが、軍人や与党の議員が多数派の国会が、改正を受け入れる余地はないとみられる。(中略)
スーチー氏は「民主化改革の核心は軍人優位の憲法を改正することだ」と繰り返してきた。NLDは8月、改正を求める500万人の署名を国会に提出。憲法改正問題は21日まで審議される。
NLDは改正に向け、大統領資格要件だけでなく、むしろ憲法改正要件(436条)の緩和を焦点に据えて全国キャンペーンを続けた。
現憲法下、改正には「国会議員の4分の3超」の賛成が必要だが、議員の4分の1は国軍総司令官が指名した国軍議員が占めており、総司令官が事実上の拒否権を握る。
しかも与党「連邦団結発展党(USDP)」を加えた議員は全体の7割以上だ。
憲法改正要件の改正を焦点にすることで「広範な自治」を求めて憲法改正を訴える少数民族勢力とも共同歩調を取れる。
だが、国軍と少数民族武装勢力との間では今、「全土停戦」に向けた交渉が続いており、内戦が続く中で国軍が自らの機能低下を招きかねない憲法改正に応じるかは疑問だ。
スーチー氏は5日の記者会見で「国会が500万人の意思を無視するなら、『国民の意見は国会の意見だ』という(主に与党議員の)モットーに反する」と強調。国軍に対しても「国民の意思を無視するとは思わない」とけん制していた。
国会審議の見通しについて、国会筋は取材に「憲法は重要でない部分だけ改正し、大統領資格や憲法改正要件などの核心には触れないと思う」と予測する。
国会はこれまで、現行の選挙制度である小選挙区制を、与党有利とされる比例代表制に変更する議論を続けてきた。
「NLD圧勝」を回避する「裏技」とみられたが、国会筋によると憲法裁判所は14日、比例代表制の導入を「違憲」と判断。現状では導入は困難となった。
このため国軍や与党は、憲法の核心部分を改正せずに「スーチー政権」誕生を阻止する可能性が高い。【2014年11月14日 毎日】
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総選挙での野党NLDの躍進が避けられない以上、改憲問題は総選挙後に先延ばしして、とりあえず総選挙後の大統領選挙は現行憲法で行い、「スー・チー政権」誕生は阻止するという意向でしょうか。
スー・チー氏の大統領資格が認められない場合、次期大統領の最有力候補と目されているシュエマン下院議長も、従来の「総選挙前の改正」から「総選挙後の改正」に主張を転換しています。
****<ミャンマー>総選挙後に改憲****
ミャンマーのシュエマン下院議長は18日、首都ネピドーで記者会見し、国軍優位を規定する現行憲法について、2015年後半予定の「総選挙後に改正される」と述べた。
国会は今、憲法改正について集中審議をしており、これまで「総選挙前の改正」を繰り返してきた議長が突然、前言を翻した格好だ。
シュエマン議長は、最大野党「国民民主連盟(NLD)」議長のアウンサンスーチー氏とともに、次期大統領職を望んでいるとみられている。
シュエマン議長は会見で「今の段階で憲法が改正されれば、今の政府や国会は存続できなくなる」と述べ、国会がまず憲法改正草案を策定し、来年5月に国民投票を実施する方針を示した。
現憲法は大統領資格について「本人、両親、配偶者、子供とその配偶者のいずれか」(59条)が外国籍であれば大統領になれないと規定。2人の息子が英国籍であるスーチー氏の「大統領就任」を阻んでいる。
次期総選挙は現憲法下で実施されることになるが、スーチー氏にどう影響するかは不透明だ。
議長によると、21日まで予定していた憲法改正についての国会での集中審議は延長する予定だという。
憲法改正には「全議員の4分の3超」が賛同する必要がある(436条)。国会は国軍総司令官が指名した軍人議員が全議員の4分の1を占めており、総司令官が事実上の拒否権を握っている。【2014年11月19日 毎日】
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【後ずさりの兆候】
現行議会勢力では圧倒的に不利な立場にあるスー・チー氏としては、テイン・セイン大統領や国軍司令官などトップの協力を取り付けて事態打開を図りたいところですが、その方向も思わしくありません。
****ミャンマー大統領、改憲に消極姿勢=ロヒンギャ族脱出「作り話」****
ミャンマーのテイン・セイン大統領は20日、国民民主連盟(NLD)党首アウン・サン・スー・チー氏ら野党陣営が要求している憲法改正について、「改憲は第一に国会、第二に国民の責任だ」とし、「政府がこうしろああしろと指示はできない。国軍もできない」と述べ、改憲に消極的な姿勢を示した。米政府系放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)のインタビューに答えた。
VOAによると、大統領はまた、イスラム系少数民族ロヒンギャ族が当局の迫害を恐れて西部ラカイン州から船で大量に脱出していると伝えられていることに対して、「ボートピープルが拷問から逃げ出しているというのはメディアのストーリーにすぎない」と主張。「一部の人間が悪意を持って否定的なことを書いている」とも語り、メディアの作り話との見方を示した。【11月21日 時事】
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これまでミャンマーの民主化を牽引してきたテイン・セイン大統領ですが、随分と後退したような感じがします。
こうした困難な情勢で、スー・チー氏は総選挙ボイコットの可能性にも含みを残しています。
****スー・チー氏、来年の総選挙ボイコットに含み****
ミャンマーの最大野党・国民民主連盟のアウン・サン・スー・チー党首は30日ヤンゴンで記者会見し、来年の総選挙に党として参加するかどうか明言を避け、ボイコットの可能性に含みを残した。
スー・チー氏は「我々の判断は選挙の日程と、ミャンマーの状況がどのようになっているかによる」と語った。
また、2012年の議会補選に参加を決めたのは、収監された国民民主連盟メンバーの釈放を評価したからだった、と述べ、今回も参加と引き換えに政権側の譲歩を迫る姿勢をにじませた。(後略)【12月30日 読売】
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総選挙ボイコットは政党としては自殺行為ですから、極力避けたい選択肢です。
先述のように、スー・チー氏としてはテイン・セイン大統領の指導力に期待するしかない状況ですが、大統領はスー・チー氏との本格的な協議を避けているとも。
****スーチー氏、大統領と応酬 改革協議の枠組み巡り****
ミャンマーで憲法改正や国内和平の動きが停滞する中、改革を推進させるための協議の枠組みをめぐって、テインセイン大統領と野党のアウンサンスーチー党首の溝が広がっている。
スーチー氏はキーパーソン4人による対話を求めているが、大統領は各党党首ら48人による会議を開いた。
大統領は、民主化と改革の継続、国内和平などを議題にした会議を12日に首都ネピドーで主催した。出席者は大統領、国軍最高司令官、スーチー氏ら党代表に加え、地方政府の少数民族担当相など48人に上った。
出席者によると、会議では1人約5分ずつ発言し、大統領がそれにコメントしたという。少数民族の政党党首は地元メディアに「多くの出席者が時間の無駄だと感じた。今後出席するかはわからない」と語った。
スーチー氏が党首を務める国民民主連盟(NLD)によると、スーチー氏は会議で「改憲に政府が熱心でない。国民の意向を尊重していない」などと政府を批判した。スーチー氏は会議後、地元記者らに「会議の目的がわからない」。
こうした会議を大統領が開くのは昨年10月末に続き2度目。前回の会議は14人が出席したが、今回はさらに参加者が増えた。大統領報道官を兼務するイェートゥ情報相は記者会見で「大統領は包括的な形で行いたいからだ」と説明した。
一方、スーチー氏は大統領、国軍最高司令官、下院議長との4者対話を求めてきた。国会は昨年11月、これに上院議長と少数民族代表を加えた6者会談を行うよう決議したが、大統領は応じていない。
ある野党上院議員は取材に「スーチー氏は少人数での協議を求めているが、大統領はやりたくない。本音は憲法を改正したくないからだ」と述べた。【1月16日 朝日】
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48人の出席者が1人約5分ずつ発言・・・・殆ど形式的な会議です。
現在の政治状況であれこれ要求されても困る・・・という大統領の気持ちもわからないではないですが。
ただ、改憲・次期大統領の問題だけでなく、民主化全体に“停滞”の感も漂っています。
****米、ミャンマーの人権に懸念 内戦避難民の状況「改善を」****
米国のマリノウスキー国務次官補(民主主義・人権・労働担当)は16日、ミャンマー最大都市ヤンゴンで記者会見し、同国の人権状況や民族対立について懸念を表明した。同国北部で続く内戦の避難民に国連などが支援物資を届けられない状況が続いているとして改善を求めた。
両国政府は15日までの2日間、首都ネピドーで人権対話を行っており、米国は懸念をミャンマー政府に伝えた。両国間の人権対話は2012年に続き2回目。
同国北部カチン州などでは、政府軍と少数民族武装組織の戦闘で約10万人が国内避難民になったままだが、国連によると昨年9月以降、政府の許可が出ず、国際機関が物資を届けられていない。
マリノウスキー氏は会見で、「非常に懸念している。(避難民への)人道上の完全なアクセスが即座に必要だ」と語った。国内で急進的な仏教徒による反イスラム運動が広がっていることについても、「政治などに宗教を利用することは危険だ」と述べた。
ミャンマーの人権状況をめぐっては国連の李亮喜(イヤンヒ)・特別報告者も16日に記者会見し「表現、集会の自由の領域で、後ずさりの兆候が勢いを増している」と懸念を示した。
当局は投獄中の政治犯を27人としているが、実際はもっと多くの人が政治的理由で拘束されているとして、「改善されたとは言えない」と語った。【1月17日 朝日】
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国連などの支援物資が届かないという状況は、旧軍政時代の2008年サイクロン被害を思い出させます。
民主化が目覚ましい勢いで進展したミャンマーですが、実態が変わるためには時間が必要なのでしょうか。
次期大統領の話に戻すと、国軍が圧倒的な権限を有しているという実態にあっては、たとえスー・チー氏が大統領になれたとしても、国軍との摩擦はさけられません。
そうした現実的見地からすれば、国軍・旧勢力をコントロールできる大統領のもとで、(もしNLDが総選挙で多数議席を獲得すれば)首相職を新設してスー・チー氏が就任するという、前回ブログでも取り上げたシュエ・マン下院議長の「連立政権構想」は検討に値するように思えます。