
(夜行列車の出発を待つハノイ駅 北部サパを旅行した際、ハノイ・ラオカイ間の夜行列車を利用しました。
ハノイでも、ラオカイでもいろいろ大変でしたし、時間もかかりました。でも、それはそれでいい思い出です。
旅行という観点からは、時間さえ許せば、別に速いことだけがすべてではありません。
“flickr”より By Juan Nosé
http://www.flickr.com/photos/ilo_oli/4136742370/)
【30時間→5時間半】
8月の末頃にベトナム中部の古都ホイアン・フエを旅行したいと計画中です。
ベトナムは旧サイゴンのホーチミン市、首都ハノイ、北部山岳地帯のサパに続いて4回目になります。
ルートは、国際線の便数の多いホーチミン市から入る形になるかと思いますが、南北に細長いベトナムですので、ホーチミン市からホイアン・フエの中部へ移動するのに列車を使うと、約17時間(ホーチミン・ハノイ間だと最速で約30時間)かかります。とてもそんな時間的余裕はないので飛行機を利用することになるでしょう。
最近話題になっている新幹線「南北高速鉄道」が完成すれば、中部までなら恐らく3時間ぐらいに短縮されるのでは。(ホーチミン・ハノイ間は5時間半で結ぶとか)
【GDPの6割】
その「南北高速鉄道」については、ベトナム政府が日本の新幹線方式の採用を決定していましたが、資金的に無理があるとの理由でベトナム議会が政府案を否定したことが報じられています。
****新幹線に黄信号 ベトナム国会、整備計画を否決*****
ベトナム国会は19日午後、「南北高速鉄道」計画を推進するとした政府案を反対多数で否決した。同鉄道は新幹線方式での整備が閣議決定されていたが、議会では560億ドルの巨額投資と鉄道事業の採算性の低さを懸念する声が相次いだ。政府が推進する事業が承認されなかったのは極めて異例で「現政権にとって打撃となる可能性もある」(外交筋)。
南北高速鉄道は同国の三大国家プロジェクトの一つ。国会は同鉄道の整備を推進するとした政府案について採決を取り、同案は賛成37%、反対42%で否決された。政府は先月から反対派に配慮して妥協案を提示。着工時期を遅らせたり、先行して整備する区間を当初案の半分に減らしたりしたが、議員の半数以上の支持を得られなかった。
国会は高速鉄道問題の今後の取り扱いを協議しないまま、同日夕、閉会した。ただチョン国会議長が閉会式で「政府はプロジェクトについてさらに検討してほしい」と指摘したことから、次期以降の国会で継続審議となる可能性もある。
今国会では南北高速鉄道について、ベトナムの国内総生産(GDP)の6割程度に達する巨額の事業費が財政を圧迫するといった意見が出た。工期が遅れ、コストが膨らむことへの懸念も多かった。採算性への懸念も根強かった。同国では首都ハノイと南部の商都ホーチミンを除けば都市機能が未整備で、中期的には途中駅の利用が見込みにくいとされる。
国会承認が得られなかったことで、事業化調査など日本政府による支援策の検討作業に影響が出るとみられる。
南北高速鉄道はハノイ―ホーチミンの1570キロメートルを5時間半で結ぶ。最高速度は時速300キロメートル。在来線では30時間以上かかる。政府案では2020年までに部分着工する予定だった。川崎重工業、三菱重工業、三菱商事、住友商事などが強い関心を示し、ベトナム側に売り込んでいた。【6月19日 日経】
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【日本側も懸念】
北部のハノイ~ビン(約280キロ)、南部のホーチミン~ニャチャン(約380キロ)の2区間を20年までに優先して開通させ、全区間を35年までに完成させるという政府計画に資金面・採算面で問題があることは、以前から指摘されていたところであり、日本側も前原国交大臣がベトナム政府の計画に懸念を示していました。
****前原国交相、現実的な計画求める ベトナム高速鉄道、課題はリスク管理 ****
ベトナム訪問中の前原誠司国土交通相は4日、同国のホアン・チュン・ハイ副首相らとの会談後に記者会見し、ベトナム政府が日本の新幹線方式の採用を決定した「南北高速鉄道」(約1600キロ)について「2020年までに優先区間を完成させるのは厳しい」と指摘した。高速鉄道建設には多額の投資が必要で、日本政府はより現実的な計画を求めている。
「(日本)政府として新幹線方式を採用していただいたことは感謝したい。ただ、完成期間や区間の短縮を柔軟に考えるべきではないか」。前原国交相は会見でこう語り、遠回しに現在のベトナムの計画には無理があるとの認識を示した。
ベトナム政府は南北高速鉄道のうち北部のハノイ~ビン(約280キロ)、南部のホーチミン~ニャチャン(約380キロ)の2区間を20年までに優先して開通させる考えで、日本側に早期の事業化調査を求めた。だが、日本は段階的な整備と引き換えに円借款について政府内で検討を具体化させる考えを表明。ベトナム側も理解を示したという。
ベトナム側の試算によると、鉄道計画の総事業費は総額560億ドル(約5兆円)。同国の08年国内総生産(GDP)の約874億ドルの6割に当たる額だ。一方で、ハノイ~ホーチミン間は毎日頻繁に航空機が飛び、すでに多くのビジネス需要を取り込んでいる。専門家からは「採算がとれるのか」との声も上がる。
5兆円もの事業費を工面するためにベトナム側が当て込むのは、円借款や企業の投資など日本からの支援だ。前原国交相は支援に応じると表明したが、事業そのものが失敗すれば、日本側が損失をこうむる懸念がつきまとう。
そうしたリスクを背負う現実があるとはいえ、ベトナムの経済成長は目を見張るものがある。ベトナムへの投資を狙う各国に先立ち、日本方式をベトナムに根付かせれば、将来大きな果実を得る期待は大きい。
今回の外遊で前原国交相が国際空港があるノイバイとハノイを結ぶ「空港連絡線」(約50キロ)の整備について事業化調査の実施を表明したのも、そんな狙いがあるからだ。
将来の果実を得るためにどう布石を打つのか。高速道路から下水道までインフラ関連ビジネスをめぐる各国との競争に日本が勝ち抜くには、戦略と判断力が問われ続けることになる。【5月4日 産経】
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【社会主義国ベトナムでの意外な否決】
資金・採算面でストップがかかったこと自体は不思議ではありませんが、非常に意外に思えたのは、ベトナムという共産党による事実上の一党独裁体制の国で、政府案が国会で否決されたということです。
ベトナムの政治事情にはなんらの知識もありませんが、なんとなく議会は大政翼賛的な存在だろうとの思い込みがありました。ちゃんと議会としてのチェック機能を果たしているようです。それとも、指導部内部の権力闘争か何かの反映でしょうか。
【東南アジア全体の交通網整備の試金石】
いずれにしても、どのような形でゴーサインが出るかは今後の話となります。
日本としては、新幹線方式採用が実現すれば喜ぶべきところでしょうが、この南北高速鉄道の成功は、やがては東南アジアと中国をつなぐ、より大きな地域ネットワークの実現に道を開くことになるとの指摘があります。
****ベトナム 南北高速鉄道2012年着工 民間資本や援助活用の試金石*****
・・・・総工費は日本の標準的な建設費に基づき、560億ドル(約5兆1000億円)と見積もられている。これはベトナムの国内総生産(GDP)の3分の2に相当するが、同国の国会に提出された報告書によると、今後25年間、平均6.4%で経済成長を続ければ返済可能であるという。確かにこれは高い数値だが、同国が市場経済を導入した1991年以降の平均成長率よりも低い。
同国は、ベトナム戦争以前も南北に別の王朝が成立するなど、分断の歴史を経験した。北部の紅河デルタと南部のメコンデルタを結ぶ高速鉄道は、国家統合に資するだけでなく、南北の2大都市からの分権化を促し、中部の経済発展に必要な条件を生み出すだろう。
ベトナムは、南北高速鉄道のほかに、北方の中国、西方のカンボジアと鉄道網を接続する計画がある。ホーチミンとカンボジアの首都プノンペンを結ぶ鉄道にはアジア開発銀行(ADB)が、一部融資している。中国南部、雲南省の省都・昆明や、広西チワン族自治区の首府、南寧とベトナム北部を結ぶ鉄道計画も進められている。国内だが、ホーチミンとメコンデルタ地帯のカントーを結ぶ鉄道建設は韓国が支援している。
東南アジア諸国連合(ASEAN)は、中国からシンガポールに至る鉄道網の建設を長い間、話し合ってきた。タイは90年代、野心的な高速鉄道を計画したが97年のアジア通貨危機で中止した。中国は、ミャンマー、ラオス、ベトナムを通る高速鉄道開発を推進するなど、ASEANの長年の夢が少しずつ現実になろうとしている。
ベトナムの南北高速鉄道やその他の交通インフラ計画は民間資本や援助を活用する同国の能力を測る試金石だ。これらが実現すれば、国家の発展における制約も緩和されるだろう。南北高速鉄道計画は、東南アジアと中国を結ぶ、より大きな地域ネットワークの鍵を握っている。【5月29日 Oxford Analytica】
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東南アジアの幹線道路において、中国が支援する「南北回廊」、日本の進める「東西回廊」「第2東西回廊」が競合していることは以前も取り上げたところですが、鉄道においても日本、中国、さらに韓国も入っての支援競争があるようです。
前出【産経】にあるように、“将来の果実を得るためにどう布石を打つのか。高速道路から下水道までインフラ関連ビジネスをめぐる各国との競争に日本が勝ち抜くには、戦略と判断力が問われ続けることになる。”ということなのでしょうが、東南アジアと地理的につながっている中国が交通網において核になるのは当然の流れでもあります。日本の新幹線技術など、各国が持ち味を生かした支援を行うことで、全体として東南アジア地域のインフラ整備が進めば、それはそれで結構なことではないか・・・というのは悠長に過ぎるでしょうか。
蛇足ながら、GWに台湾新幹線を利用した感想で言えば、新幹線駅は市街地の中、できれば在来線と同じ構内に作らないと、非常に不便で利用者も増えません。