
(ちょっとわかりにくい写真ですが、アフガニスタンへの輸送の大動脈、パキスタン・カイバル峠です。“flickr”より By michaelnewport
http://www.flickr.com/photos/zzzzz/157995919/)
【補給車両160台消失】
今月7日、8日にパキスタン北西部のペシャワルで、アフガニスタンに駐留するNATO軍のトラックターミナルが、タリバンの戦闘員に襲撃され、補給物資などを積んだトラック合計160台ほどが燃やされた事件がありました。
AFP報道によれば、事件は7日早朝(65台消失)と8日未明(100台消失)の2回に分かれて、連続して起きたとされています。
7日早朝には、タリバン200名ほどがターミナルを包囲し、警戒していた10人程度の治安要員を武装解除させた後、トラックにガソリンをかけ燃やしたということで、襲撃中、警備要員1人が撃たれて死亡、戦車2台も破壊されました。【12月7日 AFP】
8日の襲撃では、ジープや物資補給用トラック20台を含む100台近くの車両にガソリンがまかれた後放火され、警察が到着したときには武装グループは逃走していたとのこと。【12月8日 AFP】
なお、【毎日】では7日未明の1回の襲撃(約300名がロケット弾などで攻撃)で160台が消失とされていますが、どちらでも大差はありません。
この記事を見て、「いくら補給部隊とは言え、そんなに簡単に160台も焼かれていいのだろうか?補給を断つのは常套手段じゃないの?」と素人考えで驚きを感じました。
驚いたのは私だけではなかったようで、事件直後、TV等でもこの事件を取り上げ、アフガニスタン戦略における補給の脆弱性を解説していました。
かつてアフガニスタンに侵攻しようした外国勢力は、近年のソ連を含め、みなこのカイバル峠越えの補給路確保に苦しみ、侵攻が失敗に終わる大きな要因になったそうです。
【カイバル峠】
米軍主導の連合軍、NATO軍主導の国際治安支援部隊(ISAF)が必要とする大量の物資や装備の多くはまず、航路でパキスタン南部にある同国最大の港カラチに到着します。
食糧から燃料、車両、武器まで必需品の入ったコンテナは、トラックでペシャワルまで運ばれ、カイバル峠を経由するルートからアフガニスタンに入ります。
カイバル峠は全長50キロの山越えルートで、イスラム武装勢力が潜伏するパキスタン北西部の部族支配地域の中央を貫いています。
これまで、パキスタン北西部の部族支配地域は、イスラム武装勢力の拠点となっていることで注目されていましたが、物資補給ルートという意味でも重要な鍵を握っているようです。
*****タリバンの攻撃で露呈、アフガニスタン駐留軍の補給ルートの脆弱性*****
米軍報道官によると、米軍主導の連合軍は今でも毎月トラック2000台分の補給を行っているが、うち約70%がパキスタン領内を経由しており、残りの30%は空輸やほかの陸路を使用しているという。
しかし空輸はコストがかかるうえ一度に輸送できる分量が少なく、またカラチからクエッタやカンダハル市経由のルートを使えば、タリバンの拠点を通らなければならない。
パキスタン以外の国を通過するルートは限られている。アフガニスタンはイランと長い国境を接しているが、米イラン関係が敵対状態にある現状では選択肢にできない。
アフガニスタンの反対側の国境にはトルクメニスタンやウズベキスタン、タジキスタンといった旧ソ連から独立した諸国が並ぶが、これらはロシア政府の影響を多大に受けている。
ロシアとNATOの関係は、8月のロシア軍によるグルジア侵攻で悪化したが、ドイツ軍は11月、ロシア政府から同国経由でアフガニスタンに軍事物資を補給する承認を取り付けた。【12月12日 AFP】
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【インドに移るパキスタン軍の関心】
アフガニスタンにはISAFと米軍あわせて6万5千人の兵力が展開していますが、中東・中央アジアを管轄する米中央軍のペトレアス司令官は9日、アフガニスタンへの大規模増派を提言したことを明らかにしました。
これを受けるように、ゲーツ米国防長官は11日、来年夏までに少なくとも7千人規模で米軍を増派するとの見通しを示しています。
パキスタン領内のルートについては、米軍も手出しできませんので(越境攻撃はやってはいますが)、パキスタン軍に委ねるしかありません。
そのパキスタンの部族支配地域での対応については、越境攻撃・民間人犠牲増大という状況で、反米的な国民感情の高まりとアメリカの強い要請の板ばさみとなり、こまでも大きく揺れてきました。
ここにきて、インド・ムンバイの同時テロ事件以降の印パ関係緊張によって、パキスタン軍の関心がアフガニスタン国境からインド側へ移っているとのことです。
****パキスタン:部族地域掃討を中断 武装勢力が支配拡大******
国境地帯でパキスタン軍が続けてきた武装勢力掃討作戦が、インド西部ムンバイでの同時多発テロ事件の影響で中断され、武装勢力が急速に支配地域を拡大していることが16日分かった。米軍による越境攻撃やテロ事件でのインドによる非難などの圧力を受けるパキスタン軍が、対テロ戦で機能しなくなりつつあることを示すものだ。米、印、パキスタン、アフガンが複雑に関係しあう南アジアでの対テロ戦は、さらに混迷を深めている。
パキスタン軍の掃討作戦が中断しているのは、カイバル峠の北側に当たる部族支配地域バジョール、モハマド両管区と、北西辺境州スワート地区。複数の地元住民は毎日新聞に対し、ムンバイ事件が起きた11月下旬から戦闘が起きなくなり、武装勢力の支配地域が拡大していると証言した。(後略)【12月17日 毎日】
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パキスタン軍関係者は「インド軍の動向予想と分析に全力を傾注している」とのことです。
お互いに軍を動かすような決定的な行動は抑制していますが、インド空軍機の領空侵犯事件など、印パ関係はなかなか緊張が緩和しない状態で膠着しています。
【生活物資も】
タリバンとパキスタン軍動向次第で、今後カイバル峠越えの補給路確保がより困難になれば、カイバル峠・パキスタン領内を経ないルートとして、ロシアの意向が米軍・ISAFの補給にとって重要になる可能性があります。
更に、軍需物資だけではなく、アフガン国民向けの食糧や国際救援物資の大半も、カイバル峠を経由して運ばれています。
カイバル峠越えの輸送ルートの動向はアフガニスタン国民生活全般にまで及びます。
(追記:アップ後確認したところ“パキスタンの輸送業者団体「カイバル運送協会」は16日、アフガニスタンで活動する北大西洋条約機構(NATO)軍向け物資輸送業務を全面的に停止した。”とのニュースが入っていました。
やはり、パキスタン軍の警護が手薄になってきた影響のようです。)
ほんの数年前まではペシャワルからカイバル峠は観光コース(武装護衛付ですが)に入っており、私も一度カイバル峠に立ってみたいものだとミーハー的に思っていました。
当分は無理なようです。
【72%がタリバン支配・・・・】
新聞・TVがトラックターミナル襲撃事件とセットで取り上げていたのが、タリバン支配が国土の72%に拡大(前年は54%)したという報告書の件でした。
報告書は国際シンクタンク「インターナショナル・カウンシル・オン・セキュリティ・アンド・ディベロップメント(ICOS)」が8日発表したもので、タリバンはアフガニスタン南部を本拠地として、西部や北西部の地域に勢力網を拡大しているとのこと。
なお、ICOSは「恒久的に勢力を確立した地域」の定義を、タリバンが週1回以上、攻撃を行う態勢を備えた地域としています。
一方、アフガニスタン政府は、ICOSの報告書を真っ向から否定。外務省は、「タリバンの勢力分布に関するICOSの主張を、断固として否定する」との声明を発表しています。
“声明のなかで、アフガニスタン政府は、ICOSの分析方法には疑問があるうえ、タリバンの散発的なテロ行為がメディアの関心をひくための戦略であることを、報告書は理解していないと批判。また、タリバンの武力攻撃が確認されているのは、南部や東部、パキスタンとの国境付近など、ごく限られた地域だけだと言明した。”【12月9日 AFP】
【日本へ文民派遣の要請】
そんなアフガニスタンについて、日本の貢献を期待する声が報じられています。
****米、アフガンへの文民派遣期待 日本の貢献策で国務省日本部長*****
アフガニスタン本土での日本の貢献策について、米国務省のラッセル日本部長は15日、ワシントンでの記者会見で、自衛隊以外に警察、建築、医療などの分野で文民派遣に期待する考えを表明した。アフガンの治安回復と復興は、イラクに代わって米政権が抱える最大の外交課題に浮上。来年1月のオバマ政権発足後に、日本への人的貢献圧力が強まる恐れがある。【12月16日 共同】
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オバマ政権発足の頃は、日本は小沢・民主党連立政権になっているかもしれませんが、アフガンISAFへの自衛隊派遣を主張する小沢氏と意見を異にする者も党内外に多いでしょうから、相当に揉めそうな案件です。