
(ボルソナロ氏の当選が決まった夜、路上で激しく言い争う同氏の支持者(黄色男性)とアダジ氏支持者(赤色女性)【10月29日 BBC】)
【「社会の分断」から生まれた大統領ボルソナロ氏にとっては、社会の分断は深まれば深まるほど利益になる】
10月28日に行われたブラジル大統領選挙で、黒人・ゲイ・女性への差別発言を繰り返し、人権侵害があった軍事政権時代を評価し、「警察は犯罪者を殺せ」とも発言して、「ブラジルのトランプ」「ブラジルのドゥテルテ」とも称されるボルソナロ氏が当選したことは、10月29日ブログ“ブラジル 病んだ社会の不満を抱える国民が選んだ「ブラジルのトランプ」”でも取り上げました。
ボルソナロ氏は当初は泡沫候補的な存在でしたが、政権与党の労働党および支持層では人気が高かったルラ元大統領の汚職事件への関与が明らかになるなかで、そのアウトロー的な立ち位置が国民の既成政治への不満の受け皿となり、大統領職を手にすることにもなりました。
****極右を大統領に選んだブラジルの行方****
(中略)しかしブラジルは、ボルソナロ氏の登場で安定していくのだろうか。一時の熱狂に揺れたブラジル国民が、その騒ぎから醒め我に返った時、自らの国が思いもよらぬ者に支配されていることを知り愕然とすることはないのか。
アウトローゆえに「清新」
ボルソナロ氏の勝因については前稿で指摘のとおり、「既成政党に対する国民の信頼喪失」にその本質があったことは疑いない。
ディルマ・ルセフ元大統領による経済失政により、2014年から2016年までのブラジル経済は7パーセンテージ・ポイント成長率が下押しされた。多くの国民は失業の憂き目にあい、またせっかく蓄えた資産を失ってしまった。
加えて、2014年に発覚し、現在なお捜査継続中のペトロブラス汚職事件はブラジル史上最大の疑獄事件となり、PT(与党・労働党)をはじめとするほとんどの既成政党がそれに関与していることが明らかになった。
治安の悪化や政府が提供するサービスの低下もあり、もともと政治というものに多くを期待しなかったブラジル国民も、今度ばかりは既成政党に対する信頼を失った。
「これまでの政党ではだめだ」というのがブラジル国民のコンセンサスになったといっていい。その「政治的真空」の中に現れたのがボルソナロ氏だ。
ボルソナロ氏は当初、泡沫候補でしかなかった。軍司令官を歴任後、28年も議員職にありながら目立った業績は皆無。その過激な言動で名前が知られていたに過ぎない。従って当初は、ボルソナロ氏の当選を予想する者はいなかったといっていい。
しかし、この真空状態の中、ボルソナロ氏は既成政治の外の「アウトロー的存在」であり、その意味で、穢れた今の政界にあって「清新」である。既存政治に対する信頼を失った国民にとり、新しい指導者は何はさておき、今までの政治とは別の世界の人物でなければならなかったのだ。
確かに、黒人、ゲイ、女性を差別する同氏の言動は、これら社会的弱者にとり支持をためらうものであったことは事実である。しかし、これらの人々も、PTの失政で資産を失い、汚職で既成政党に対する信頼を喪失している。
ボルソナロ氏の過激な言動は逆に、同氏の立ち位置を明確にし、「既成政治との決別」を強く印象付けるのに役立った。銃所持の自由化や、「警察は犯罪者を殺せ」との発言は、治安悪化に悩む人々にとり実効性ある政策として受け入れられていったのである。(中略)
「社会の分断」から生まれた大統領
ボルソナロ氏の勝因についてもう一つ重要な点として、「ブラジル社会の分断」を指摘しておきたい。
既成政治と一線を画し、「既成政治が生んだ社会の混乱を正すことこそが自分に与えられた使命だ」、と主張するボルソナロ氏にとり、社会の分断は深まれば深まるほど利益になる。かくてボルソナロ氏はことさら対立をあおる戦略に出た。
そもそも、今回の選挙は「反PT」と「反ボルソナロ」の戦いでもあった。ボルソナロ氏は勝利したが、ボルソナロ氏にだけは政権を渡したくないと考える有権者も多かった。
つまり、ボルソナロ氏とアダジ氏に投票した有権者は、その双方がともに相手にだけは政権を取らせたくないと考えて投票した。双方の有権者の間には深い亀裂ができたのである。
分断したブラジル社会を治癒し再び一体感を持った社会を作り上げることは大統領に当選したボルソナロ氏に与えられた重要な課題だが、同氏に分断を乗り越えようとの姿勢は見受けられない。何より同氏は分断により生まれた大統領なのである。(中略)
「熱狂」の賞味期限
最後に、改革の行方はどうか。ブラジル政治が汚職体質にあり、また、経済が財政赤字の重圧の下にあることは改めて言うまでもない。
政治の改革には選挙制度と政党の改革が不可欠であり、財政赤字の改善には、就中、年金制度改革が待ったなしである。ブラジルが再生するか否かは偏にこうした改革の成否にかかっている。
しかし、ボルソナロ氏が大統領に就任し、まずこういった難題から手を付けていくだろうと見る向きは少ない。これらはいずれも、その必要性を疑う向きはないが、成果が見えにくく、国民が利益を実感しづらい課題でもある。
従って、ボルソナロ氏がまず取り組むのは選挙中も強く訴えた治安対策と思われる。銃所持の自由化、犯罪の責任年齢引き下げ、治安部隊の強化等である。
だが、選挙が終わり、熱狂から覚めた国民は、目に見える成果がなければ容易にボルソナロ批判に廻る。ボルソナロ氏に与えられた時間は決して長くないはずだ。【11月1日 WEDGE】
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上記記事の「ボルソナロ」を「トランプ」に置き換えてもいいような、アメリカ社会の「分断」と類似性があります。
“ボルソナロ大統領”を生むことになったペトロブラス汚職事件の方は、テメル大統領も汚職と資金洗浄の疑いで起訴される状況となっており、その点ではボルソナロ大統領による政治刷新を求める風はまだ吹いています。
【イスラエル大使館移転、国連の移民協定から脱退、温暖化防止パリ協定からの離脱、銃規制などでトランプ的な認識】
ボルソナロ氏の大統領就任は来年1月ですが、すでに同氏らしい発言がいくつか明らかになっています。
****「大使館をエルサレムに移転」ブラジル次期大統領が表明</font>****
南米ブラジルで次期大統領に当選したジャイル・ボルソナーロ下院議員(63)は1日、自身のツイッターで、在イスラエルのブラジル大使館を商都テルアビブからエルサレムに移転すると明らかにした。
ボルソナーロ氏はイスラエルを支持するキリスト教プロテスタント福音派の信者で、信仰が影響しているとみられる。
ボルソナーロ氏は「選挙中に約束したように、テルアビブのブラジル大使館をエルサレムに移転するつもりだ。イスラエルは主権国家であり、尊重しなければならない」とポルトガル語と英語でツイートした。
福音派信者のボルソナーロ氏は当選後の勝利演説でも、何度も神への感謝を語った。「なによりもブラジル、なによりも神様」をキャッチフレーズにした選挙では、イスラエルの大使館移転のほか、首都ブラジリアにあるパレスチナ自治政府の大使館を「閉鎖させる」とも発言。支持集会では、ブラジル国旗だけでなく、イスラエルの旗が振られてもいた。(後略)【11月2日 朝日】
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****「フランスは移民で苦しみ」=受け入れ反対を表明―ブラジル次期大統領****
ブラジルのボルソナロ次期大統領は18日、インターネット交流サイト(SNS)で公開した映像で「フランスは移民を快く受け入れたが、それにより苦しんでいる。ブラジルで同じことは起きてほしくない」と述べ、移民受け入れに原則反対の立場を明確に打ち出した。
ボルソナロ氏は「フランスの幾つかの地域は(移民流入により)生活することが耐え難く、国内に不寛容の空気が広がりつつある」と強調。「移民に反対しないが、ブラジルに入るには厳しい条件が必要だ」とした上で、来年1月1日の就任後、署名したばかりの国連の移民協定から脱退する意向を示した。【12月20日 時事】
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国連の移民協定だけでなく、地球温暖化対策の国際枠組みである「パリ協定」からの離脱をも示唆しており、次期外相にも温暖化対策を疑問視する人物の起用を決めるなどしています。
「温暖化に対する規制をするということは産業の発展を抑制することだと。こう考える人も結構います。アメリカは世界最大の産油国にもなったし、石炭産業も大きい。トランプ大統領はそれを利用した。温暖化対策より、大胆な開発なんだと。自分の選挙で勝つために必要だった。ブラジルも同じ。産業発展をしていきたいという人たちに向けて都合よく解釈した。温暖化など重要なものじゃないと」(前嶋和弘教授(上智大学・国際関係論))【12月9日 「サンデーモーニング」スタッフノート 】
銃規制緩和を支持しているという点でも、銃規制に消極的なトランプ大統領とダブります。
****銃支持派が期待する、ボウソナロ氏の大統領就任 ブラジル****
(護身のために拳銃2丁とショットガンを保持する)バロッソさんのようなブラジル国民は、1月1日に次期大統領に就任するジャイル・ボウソナロ氏が公約に掲げている銃規制緩和を心待ちにしている。
極右政治家のボウソナロ氏は、同国にまん延する路上犯罪の被害に遭った場合に備えて「善人」が銃を所持することを奨励している。また銃所持の年齢制限を、25歳から21歳へ引き下げることも約束している。
こうした犯罪により、ブラジルは犯罪多発国の一つに数えられており、昨年は6万3880人が殺害された。非営利団体「ブラジル公安フォーラム」によると、こうした殺人事件の70%は銃器によるものだという。
■「銃には銃を」
ブラジル人は、銃を所有するという考えに固執し続けてきた。2005年に実施された銃規制をめぐる国民投票では、銃器の販売を禁止する法案に投票者の64%が反対した。(中略)
バロッソさんが紙製の的を狙ってショットガンを撃つ練習をしている射撃場「コルト45」の経営者によると、会員数はこの3年間で激増し、125人から1350人と10倍以上になった。(中略)
同射撃場は、ボウソナロ氏への支持をはっきり表明しており、窓には次期大統領を支持するステッカーも貼られている。
インストラクターのジョアン・ベルクレさんは、次期大統領が「銃購入を希望する人々のために状況を改善してくれる」ことを望んでいる。「現状では犯罪者たちは、殺傷能力の高いライフルや戦闘用武器を含む密輸品に簡単にアクセスできる。公平さが必要だ」
銃がもっと普及すれば犯罪者も思いとどまる、というのがベルクレさんの持論だ。「目の前の人物が武装していると思えば、強盗だってもっと慎重になるだろう。今は皆が銃を持っていないことが明らかだから、強盗は平気で銃を突きつけるんだ」
しかし弁護士のバロッソさんは、銃の一般化には同意できない。「街中にいる皆が銃を持ち、誰かが脅かされたと感じるたびに撃ち合いが起きていたら、まるで西部劇になってしまう」「私だったら携帯電話を盗もうとした相手に対して、銃を取り出すことは決してしない。たかが電話のために、的を外して無実の人を撃ってしまうようなことが恐ろしいからだ。市民には警察の仕事はできない」【12月25日 AFP】
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【キューバ・ベネズエラ左派政権と対立鮮明化】
外交面では、就任式に反米左派政権のキューバ、ベネズエラ両国首脳を招かないことを決めて、両国との対立が鮮明化しています。
****ブラジル緊張高まる 新大統領、就任式にキューバ首脳ら招かず****
ブラジルの極右、ボルソナロ次期大統領は、来年1月の大統領就任式に反米左派政権のキューバ、ベネズエラ両国首脳を招かないことを決めた。
両国は反発し、キューバはブラジルへの医師の集団派遣を打ち切り、ベネズエラは軍備を増強する。ボルソナロ氏は米トランプ政権との連携を強めており、就任前から早くも中南米で左派政権との対立を深めている。
「二つの国に選挙は存在しない。あったとしても、不正(選挙)だ」。ボルソナロ氏は今月18日、ネット公開した演説で、両国首脳は民主主義に基づかない手法で選ばれた独裁者だと主張。
外務省が出していた、キューバのディアスカネル国家評議会議長とベネズエラのマドゥロ大統領に対する就任式への招待を取り下げたことを明らかにした。両国への圧力強化を宣言し、次期政権幹部は外交関係断絶も示唆する。
ボルソナロ氏は、政治手法が共通するトランプ米大統領を称賛し、「ブラジルのトランプ」と呼ばれる。11月、リオデジャネイロの自宅でボルトン米大統領補佐官と会談し、中南米の反米左派政権に対し、連携を深めることを確認した。
「キューバ政府が医師の給料の多くを受け取り、医療レベルが低い」などと改善を求めたボルソナロ氏に対し、キューバ政府は「侮辱的発言は受け入れられない」と判断。11月、ブラジルへの医師派遣を中止し、滞在中の医師約8000人を年内に引き揚げることを決定した。
米国による厳しい制裁が続くキューバにとって国外50カ国以上への医師派遣は重要な外貨獲得源。ブラジルはベネズエラと並ぶ最大規模の受け入れ先だった。キューバにとって、約1億2000万ドル(約130億円)の歳入減になる一方で、医師不足に悩むブラジルも帰国した医師の穴埋めに奔走している。
またベネズエラのマドゥロ氏は、米国やブラジルなど「帝国主義国」がベネズエラへの軍事介入やクーデターを計画していると持論を展開。今月17日、準軍事組織の構成員が160万人以上に達したとして、「(介入時には構成員に)歯まで武装させる。生きたまま帰らせないだろう」と述べ、警戒心をあらわにした。
ボルソナロ氏の就任式には、ポンペオ米国務長官やイスラエルのネタニヤフ首相が出席する。イスラエル首脳のブラジル訪問は初めてとなる。【12月23日 毎日】
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キューバはともかく、ベネズエラ・マドゥロ政権は南米でも批判されている存在ですから、就任式に招かないというのも驚きではありません。
それにしても、キューバの医師派遣がブラジルに8000名というのも“すごい”です。どうやれば、そんなに大量の医師を養成できるのでしょうか?
【中国依存を強めるブラジル 選挙中の対中国批判は?】
話をブラジル・ボルソナロ氏にもどすと、同氏は選挙中、中国を批判する発言を行ってきました。当然、中国は警戒はしていますが、現状維持に自信もあるようです。
近年、ブラジルで中国の影響力が急激に上昇しています。
“今世紀に入るまで、中国は南米でほとんど存在感を持たなかった。しかし、その後に急速な変化が起き、中国の過去15年の対ブラジル直接投資は540億ドル(約6兆1280億円)に上った。ブラジルは中国にとって第3の投資目的地だ。一方、中国はブラジルの最大の輸出先となった。”【12月4日 レコードチャイナ】
****ブラジル大統領選で極右ボルソナロ氏が勝利=中国で「反中」「第二のトランプ」と警戒の声****
28日に決選投票が行われたブラジルの大統領選で、極右とされるジャイル・ボルソナロ氏が当選した。ボルソナロはこれまで、経済問題などで中国を批判する発言を繰り返してきた。また、大統領選候補者として初めて台湾を訪問した。
中国メディアの環球時報は、「ブラジルにもトランプが出現」「反中」などとして警戒する記事を発表した。
ブラジルでは2011年に就任したルセフ大統領まで、長年にわたり左翼政権が続いてきた。ルセフ大統領が政治資金問題で16年に失脚すると、テミル大統領による中道政権が発足。さらに2019年1月1日に発足するボルソナロ政権で、ブラジルの政治は大きく右に舵を切ることになる。
環球時報発表の記事よると、ロイター通信は数日前にすでに、「ボルソナロ氏の反中発言に中国は憂慮」と紹介する記事を発表した。ボルソナロ氏は中国企業がブラジルのエネルギー資源、農産物、砿業資源、さらに土地まで大量に購入していることを批判し「ブラジルの物産を買っているのではない。ブラジル(そのもの)を買っている」と論じたという。記事が、「ブラジルにもトランプが出現」と評したのは、そのためだ。
そのため、ボルソナロ政権は発足後、両国の各協定を、現状よりも中国側に大きく不利な内容に修正する可能性があるという。
ボルソナロ氏は軍人出身で、1960年代の「反共政権」に好意を示す発言をしたこともある。記事はさらに、1974年に中国とブラジルが国交を樹立してから初めて、大統領選候補の身分で台湾を訪問したと紹介。極右とされるボルソナロ氏が、大統領就任後も台湾に好意を示すとすれば、中国当局にとっては「頭の痛い」問題になるはずだ。
ただし清華大学に在籍して中国・ブラジル関係を研究するオッタビオ・コスタ・ミランダ氏は、トランプ政権下の米国とブラジルでは、状況が全く異なると指摘。米トランプ大統領は、貿易赤字などを解消しようとして中国に対して強硬姿勢で臨んでいるが、ブラジルは対中貿易で、例えば2017年実績で201億ドル(約2兆2500億円)と、巨額の黒字を続けているからだ。
そのため、ボルソナロ氏の「反中発言」は、ブラジル人口の40%を占める農業従事者や、鉱業企業には歓迎されていないという。
記事によると、ブラジルFGV大学で国際関係論を先行するオリバー・シュテンケル教授は、ボルソナロ氏の反中発言が「どんどんと減ってきた」と指摘。一方で女性の権利や性的少数者の問題での超保守的な発言で、有権者を驚かせるようになったという。
また、ボルソナロ氏が選挙期間中に発表した計81ページに上る施策方針でも、外交については最後の1項目しかなかった。そのため、ボルソナロ氏の反中発言は「無知」によるもので、大統領就任後の言動には未知の部分もあるが、有権者の多くを占める農業従事者を納得させるためにも、中国とブラジルの関係が「大風大波に遭遇することはない」との見方が出ているという。【10月29日 レコードチャイナ】
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「無知」なところも・・・と言うのはやめておきます。
中国は自信を持っているようにも見えますが、政治・財政・年金といった国内改革が進まないとき、中国を標的にして、外交面で即時的な変化をアピールするということはありえる話でしょう。